第一審判決が、併合罪の関係にある数個の訴因中の一個に対する判断を遺脱し、残りの訴因についてのみ有罪の判決をした違法があるのに、原判決がこれを看過し、量刑不当を理由にこれを破棄したうえ、第一審判決の認定判示した事実に法令を適用して自判した違法があつても、右違法により被告人に重大な法律上の利益の侵害を生ずるような事情がなく(判文参照)、かつ、検察官の上告がない場合には、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
刑訴法第四一一条第一号にあたらないとされた事例―判断遺脱の場合
刑訴法378条3号,刑訴法411条1号
判旨
併合審理された数罪の一部について判断遺脱があっても、上訴により全事件が移審し、判決確定により判断遺脱部分にも一事不再理効が及ぶため、被告人に不利益はなく、検察官の上告がない限り原判決を破棄すべき「著しく正義に反する」事由には当たらない。
問題の所在(論点)
併合罪として起訴された一部の訴因について判決が判断を遺脱した場合に、その違法は判決に影響を及ぼすものとして、上告審において原判決を破棄しなければ「著しく正義に反する」(刑訴法411条)といえるか。
規範
1. 刑事訴訟において民事訴訟法のような追加判決の規定はなく、判断遺脱は絶対的控訴理由(刑訴法378条3号)となる。2. しかし、併合審理された数個の訴因の一部についてのみ実体判決がなされた場合でも、適法な弁論分離の手続がない限り、上訴により全訴因について移審の効力が生じる。3. 当該判決が確定したときは、判断遺脱にかかる訴因についても一事不再理効(公訴棄却事由)が及び、再度の公訴提起は許されなくなる。
重要事実
被告人は、複数の者に対する現金供与等の事実(併合罪の関係にある数個の訴因)で起訴された。第一審判決は、そのうちの一部の訴因(Aに対する現金供与)について判断を遺脱したまま、残りの訴因についてのみ有罪を宣告した。控訴審もこの過誤を看過し、第一審が認定した事実のみを対象に量刑不当を理由として自判に及んだ。これに対し、被告人側が判断遺脱の違法等を理由に上告した事案である。
あてはめ
判例によれば、判断遺脱にかかる訴因については被告人が無罪を主張して上訴することはできないが、上訴によって事件全体が移審するため、もはや元の裁判所が遺脱部分を審判することはできない。また、判決が確定すれば遺脱部分にも一事不再理効が及ぶ。したがって、被告人が同一の事実について二重の処罰を受ける恐れはなく、被告人の側に重大な法律上の利益の侵害は生じない。本件では検察官からの上告もなされていないため、実質的な不利益はないといえる。
結論
判断遺脱の違法は認められるが、被告人に重大な不利益が生じない以上、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められず、上告は棄却される。
実務上の射程
裁判所の判断遺脱(審判の請求を受けた事件につき判決をしない違法)の救済の限界を示す。実務上、被告人側からこの違法を主張しても、一事不再理効による保護があることを理由に「著しく正義に反する」との要件で撥ねられる可能性が高いことを示唆しており、検察官上訴の有無が結論を左右する重要要素となる。
事件番号: 昭和43(あ)1974 / 裁判年月日: 昭和44年1月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟において、上告理由が実質的に単なる法令違反や事実誤認、量刑不当の主張にすぎない場合は、刑訴法405条の上告理由には当たらない。また、原審が事実の取調べを行っている以上、それと矛盾する前提に基づく判例違反の主張は採用されない。 第1 事案の概要:被告人A、B、Cらは、第一審判決に対し控訴した…