第一審判決が、併合罪として起訴された被告人の延三二名に対する三二回、合計四二万円の供与、交付の公職選挙法違反行為につき、全部有罪としたところ、原判決が右起訴事実中一名に対する一回、一万円の交付について無罪と認めながら、右第一審判決の事実誤認、法令適用の誤は判決に影響を及ぼさないとして控訴を棄却したときは、原判決には判決に影響を及ぼすべき法令違反はあるけれども、これを破棄しなければ著しく正義に反するものとはいえない。
刑訴法第四一一条第一号にあたらないとされた事例。
刑訴法411条1号,刑訴法380条,刑訴法382条
判旨
併合罪として起訴された公訴事実の一部について無罪と認めるときは、判決主文において一部無罪を宣告すべきであり、これを有罪とした第一審判決を維持して控訴を棄却した原判決には法令違反がある。しかし、無罪とされるべき部分が全体に比して僅少である場合には、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない。
問題の所在(論点)
併合罪として起訴された公訴事実の一部が無罪となる場合において、主文で無罪を宣告せずに控訴を棄却した判断の適法性、およびそれが刑訴法411条の破棄事由に該当するか。
規範
1. 併合罪(刑法45条前段)として起訴された数個の公訴事実のうち、一部が罪にならないと認めるときは、裁判所は判決主文において一部無罪の宣告をすべきである。2. 第一審が有罪とした一部事実につき控訴審が無罪と判断しながら、他の有罪部分があることを理由に控訴を棄却することは、判決に影響を及ぼすべき法令違反となる。3. ただし、上告審において原判決を破棄するか否かは、当該違反が著しく正義に反するかどうか(刑訴法411条1号)により決すべきである。
重要事実
被告人Aは、延べ32名に対する合計42万円の供与・交付等の公職選挙法違反(事前運動罪等)の事実で起訴された。第一審はこれらを全て併合罪として有罪としたが、控訴審は、そのうち1件(現金1万円の授受)について、共謀者間での資金手交に過ぎず罪にならないと判断した。しかし、控訴審は、他に多くの有罪事実があることを理由に、主文で一部無罪を宣告することなく第一審判決を維持し、被告人の控訴を棄却した。これに対し弁護人が上告した事案である。
あてはめ
本件では、現金1万円の授受について共謀者間の資金移動に過ぎず罪を構成しないため、本来は主文で一部無罪を宣告すべきであった。したがって、有罪とした第一審を維持した原判決には法令違反がある。しかし、被告人の全違反行為(32回、42万円)に対し、無罪とされるべき部分は「僅か1名に対し1回、1万円の交付行為」に過ぎない。この程度の量刑的・事実的な差異に鑑みれば、判決主文の誤りがあったとしても、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
併合罪の一部につき無罪を宣告しなかった原判決の法令違反は認めるが、当該部分は全体に比して僅少であり、著しく正義に反するとはいえないため、上告を棄却する。
実務上の射程
併合罪の処理において、一部無罪がある場合の主文構成の原則を示す。答案上は、一部無罪の判決手続の誤りを指摘した上で、刑訴法411条(上告審での職権破棄)の「著しく正義に反する場合」のあてはめにおいて、無罪部分の質的・量的比重を検討する際の指標として活用できる。
事件番号: 昭和42(あ)1884 / 裁判年月日: 昭和43年4月26日 / 結論: 棄却
第一審判決が、併合罪の関係にある数個の訴因中の一個に対する判断を遺脱し、残りの訴因についてのみ有罪の判決をした違法があるのに、原判決がこれを看過し、量刑不当を理由にこれを破棄したうえ、第一審判決の認定判示した事実に法令を適用して自判した違法があつても、右違法により被告人に重大な法律上の利益の侵害を生ずるような事情がなく…