判旨
労働組合法1条2項による刑事免責の規定は、勤労者の団体交渉において刑法上の暴行罪または脅迫罪に当たる行為が行われた場合にまで適用されるものではない。たとえ正当な目的をもつ団体交渉であっても、暴力的な手段を用いることは許容されないとする判断を示した。
問題の所在(論点)
労働組合法1条2項(刑事免責)の範囲が、団体交渉における暴行や脅迫といった実力行使にまで及ぶか、また暴力行為等処罰法により処罰することが憲法に違反しないか。
規範
労働組合法1条2項の規定は、正当な組合活動に伴う刑事免責を認めたものであるが、勤労者の団体交渉の際に行われた行為であっても、刑法上の暴行罪または脅迫罪に該当する暴力的な行為については、同条項の適用範囲外であり、処罰を免れない。
重要事実
A労働者組合の組合員らが、団体交渉の過程において暴力的な行為に及んだとして、暴力行為等処罰ニ関スル法律1条1項(現在の暴力行為等処罰法1条)の罪に問われた事案である。被告人側は、労働組合法に基づく正当な行為であることを理由に、当該処罰規定の適用が憲法違反である、または刑事免責が認められるべきであると主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、過去の大法廷判決を引用し、暴力行為等処罰法の規定は憲法に違反しないと断じた。その上で、たとえ当該組合が労働組合法に準拠して組織されたものであっても、団体交渉において刑法所定の暴行罪や脅迫罪に当たる行為が行われた場合には、労働組合法1条2項による刑事免責の利益を享受することはできないと判断した。組合活動の正当性は手段の穏当性を前提とするものであり、暴力の行使は法的に保護されない。
結論
団体交渉中の行為であっても暴行・脅迫に当たる場合は刑事免責の対象とならず、有罪とした原判決は正当であるとして、上告を棄却した。
事件番号: 昭和35(あ)2920 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による行為であっても、多数で長時間取り囲み、脅迫を用いて相手方の自由意思を抑圧し、義務のないことを行わせる行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱し、違法性を有する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合の活動として、他の多数の組合員らと共に長時間にわたって被害者Aを取り囲んだ。その際、被告人…
実務上の射程
憲法28条に基づく団体交渉権の行使であっても、手段が刑罰法規に触れる暴力的なものである場合には正当性が否定される。刑事実務および労働法上、正当な争議行為や団体交渉の限界(手段の正当性)を画定する基準として機能する。
事件番号: 昭和40(あ)1840 / 裁判年月日: 昭和41年12月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動の刑事免責は、正当な限界を超えないものに限り認められるものであり、暴力が行使された場合には正当性を欠くため、暴力行為等処罰法等の刑事罰の適用を受ける。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員として使用者側と団体交渉を行っていた際、使用者側が交渉を打ち切ろうとしたことに憤…
事件番号: 昭和38(あ)2188 / 裁判年月日: 昭和40年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合活動の一環として行われた行為であっても、暴行罪や脅迫罪等の刑法上の構成要件に該当する暴力的な態様を伴う場合には、労働組合法1条2項の正当行為として刑法35条による違法性阻却は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として特定の行為に及んだが、その態様が刑法上の暴行罪…
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…
事件番号: 昭和27(あ)4473 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合等の活動が刑法上の正当行為(刑法35条)として違法性を阻却されるためには、その行為が憲法28条の趣旨に照らし、正当な団体交渉の目的達成のために必要かつ相当な範囲内で行われることが必要である。 第1 事案の概要:被告人らの所為が刑法上の犯罪構成要件に該当する一方で、被告人側は当該行為が憲法2…