判旨
憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。
問題の所在(論点)
団体交渉や争議行為の過程で行われた暴行等の違法行為について、憲法28条の団体行動権の保障、および労働組合法1条2項(正当行為の刑事免責)に基づき、その刑事責任が否定されるか。
規範
憲法28条による勤労者の基本的人権の保障も、他者の基本的人権(平等権、自由権、財産権等)に対して絶対的に優位するものではない。したがって、使用者側の自由意思を剥奪、あるいは極度に抑圧するような行為は許容されない。また、労働組合法1条2項が刑法35条を準用して刑事上の免責を認めるのは、同条1項の目的達成のためにした正当な行為に限られる。
重要事実
被告人らは、勤労者の団体交渉の場において、刑法所定の暴行罪等に該当する行為に及んだ。第一審判決によれば、これらの行為は使用者側の自由意思を不当に抑圧する態様で行われたものであったが、弁護人はこれらが憲法28条および労働組合法1条2項により正当化されるべきであるとして上告した。
あてはめ
本件における被告人らの行為は、刑法上の暴行罪等に該当するものであり、その態様は使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧する性質のものである。このような暴力的な手段を伴う行為は、労働組合法が目的とする健全な団体交渉の枠を逸脱しており、刑法35条にいう「正当な行為」には該当しない。したがって、憲法28条の保障の範囲外であると判断される。
結論
被告人らの行為は正当な団体行動権の行使には該当せず、刑事上の免責は認められない。したがって、暴行罪等の成立を認めた原判決は正当である。
事件番号: 昭和31(あ)1660 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
本件行為当時の情況上被告人に他の行為を期待することができない旨の主張があつた場合に、単に暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行の有罪事実を認定することは、間接的にも期待可能性なるものの存否につき判断を示したものとは認められない。
実務上の射程
争議行為等の正当性の限界を画する判例である。「使用者側の自由意思の剥奪・極度の抑圧」を基準として、暴力的手段を伴う行為が刑事免責の対象外となることを明示した。司法試験においては、労働基本権の限界や、刑法35条(正当行為)の解釈において、行為の態様の相当性を論じる際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和39(あ)161 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員による暴力の行使は、それが団結のための平和的説得の域を脱している場合には、憲法28条が保障する団体行動権の行使には当たらず、正当な業務行為として刑事免責を受けることはない。 第1 事案の概要:被告人は、労働組合員ら4、5名とともに、コークスの傾斜面に立って貨車に手をかけていた被害者の背後…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…
事件番号: 昭和38(あ)2188 / 裁判年月日: 昭和40年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合活動の一環として行われた行為であっても、暴行罪や脅迫罪等の刑法上の構成要件に該当する暴力的な態様を伴う場合には、労働組合法1条2項の正当行為として刑法35条による違法性阻却は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として特定の行為に及んだが、その態様が刑法上の暴行罪…
事件番号: 昭和24(れ)898 / 裁判年月日: 昭和29年4月7日 / 結論: 棄却
一 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項は、憲法第二八条に違反しない。 二 暴力行為等処罰に関する法律は、一九四五年一〇月四日附連合国最高司令官の「政治的、公民的及び宗教的自由の制限除去に関する覚書」により廃止されたものではない。 三 暴力行為等処罰に関する法律は、ポツダム宣言の受諾により失効したものではない。