一 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項は、憲法第二八条に違反しない。 二 暴力行為等処罰に関する法律は、一九四五年一〇月四日附連合国最高司令官の「政治的、公民的及び宗教的自由の制限除去に関する覚書」により廃止されたものではない。 三 暴力行為等処罰に関する法律は、ポツダム宣言の受諾により失効したものではない。
一 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の合憲性 二 暴力行為等処罰に関する法律と一九四五年一〇月四日附連合国最高司令官の「政治的、公民的及宗教的自由の制限除去に関する覚書」 三 暴力行為等処罰に関する法律とポツダム宣言
憲法28条,暴力行為等処罰に関する法律1条1項1945年10月4日附連合国最高司令官の「政治的、公民的及び宗教的自由の制限除去に関する覚書」ポツダム宣言
判旨
憲法28条が保障する団体行動権等は絶対無制限ではなく、他人の自由権等の基本的人権を不当に侵害する行為は、社会通念上正当な範囲を逸脱した権利の濫用として刑事罰の対象となる。
問題の所在(論点)
労働組合による団結権・団体行動権(憲法28条)の行使として行われた暴行・脅迫を伴う行為が、刑罰法規(傷害罪・暴力行為等処罰法)の適用を免れる「正当な行使」の範囲に属するか。
規範
勤労者の団体交渉権等は、正当な行使の範囲内にある限り法律上許容されるが、その範囲を逸脱する場合は権利の濫用となり、憲法・法律上の保護を受けない。正当性の判断にあたっては、憲法が基本的人権として保障した意義を認識しつつ、当該行動の内容が社会通念に従って妥当な範囲に属するか否かによって決する。特に、他人に暴行・脅迫を加える行為は、団体行動権等の限界を超えた違法なものと言わざるを得ない。
重要事実
時計工場の従業員組合に所属する被告人らは、賃上げに反対し分裂した第二組合(C同志会)を解散させるため、数百名で事務所を包囲した。その際、会員らを殴打・蹴飛ばす等の暴行を加えて連行し、多衆の威力を示して夜を徹して詰問を続け、一部の者に傷害を負わせた。被告人らはこれらの行為が団体行動権の行使として正当化されると主張した。
事件番号: 昭和43(あ)15 / 裁判年月日: 昭和43年10月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体行動であっても、暴力の行使を伴う行為については、憲法28条が保障する正当な団体行動の範囲を逸脱し、違法性が阻却されない。 第1 事案の概要:被告人両名を含む労働組合員らが、労働争議に関連する活動の過程において、暴力の行使を伴う所為(本件所為)に及んだ。被告人らは、かかる行為が憲法…
あてはめ
被告人らの行為は、数百名で事務所を包囲し、他人に暴行を加えて連行した上、多衆の威力により夜を徹して詰問を強行し傷害を負わせるというものである。このような集団的な暴行・脅迫を伴う行動は、社会通念上、団体交渉権等の正当な行使の範囲を明らかに逸脱している。したがって、当該行為は権利の濫用であり、刑事上の違法性が阻却されることはない。
結論
被告人らの行為は団体行動権の正当な行使とは認められず、傷害罪及び暴力行為等処罰法1条1項の罪が成立する。
実務上の射程
労働基本権と刑事罰の境界を示すリーディングケースである。争議行為等における「正当性」の判断基準として「社会通念」を提示しており、暴力行使が原則として正当性を欠くことを明確にしている。答案上は、憲法28条に基づく刑事免責の限界(労組法1条2項但書参照)を論じる際の規範として引用する。
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…
事件番号: 昭和38(あ)2299 / 裁判年月日: 昭和39年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働基本権(憲法28条)の保障は無制限ではなく、争議行為がその正当な範囲を逸脱する場合には、刑罰法規等の適用が免れることはない。 第1 事案の概要:被告人ら(労働組合員ら14名)は、労働争議の過程において特定の行為(詳細は判決文からは不明だが、一審判決が認定した事実に基づく)を行った。一審判決およ…
事件番号: 昭和40(あ)1840 / 裁判年月日: 昭和41年12月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動の刑事免責は、正当な限界を超えないものに限り認められるものであり、暴力が行使された場合には正当性を欠くため、暴力行為等処罰法等の刑事罰の適用を受ける。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員として使用者側と団体交渉を行っていた際、使用者側が交渉を打ち切ろうとしたことに憤…