判旨
労働組合員による暴力の行使は、それが団結のための平和的説得の域を脱している場合には、憲法28条が保障する団体行動権の行使には当たらず、正当な業務行為として刑事免責を受けることはない。
問題の所在(論点)
労働組合員が他者に対して暴行を加え傷害を負わせる行為が、憲法28条の団体行動権の行使として正当化され、刑事免責の対象となるか。
規範
労働組合員による行動が、憲法28条の保障する団体行動権の行使として正当性を有し、刑事免責を受けるためには、労働組合員間の団結のための「平和的説得」の範囲内にとどまるものでなければならない。暴力的行為を伴うものは、団結権の行使またはその擁護のための説得行為とは認められず、正当な範囲を逸脱するものと解される。
重要事実
被告人は、労働組合員ら4、5名とともに、コークスの傾斜面に立って貨車に手をかけていた被害者の背後から、同人の右手を数分間にわたり数回強く後方に引っ張った。これにより、被害者に対し、治療に約4週間を要する右肩右肘等捻挫の傷害を負わせた。
あてはめ
被告人の行為は、不安定な場所にいる被害者の腕を数分間にわたって強く引っ張るというものであり、結果として全治4週間の傷害を生じさせている。このような身体的完全性を侵害する暴力の行使は、労働組合員間の団結を促すための「平和的説得」の域を明らかに脱しているといえる。したがって、当該行為は団結権の行使または擁護のための正当な行為とは認められない。
結論
被告人の行為は憲法28条の団体行動権の行使には当たらず、傷害罪の成立を免れない。
実務上の射程
争議行為等の正当性の限界(刑事免責の限界)に関するリーディングケースの一つ。答案上は、争議行為に伴う具体的態様が「平和的説得」の範囲内か、あるいは身体・自由を拘束する「実力行使」に当たるかを検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…
事件番号: 昭和38(あ)2299 / 裁判年月日: 昭和39年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働基本権(憲法28条)の保障は無制限ではなく、争議行為がその正当な範囲を逸脱する場合には、刑罰法規等の適用が免れることはない。 第1 事案の概要:被告人ら(労働組合員ら14名)は、労働争議の過程において特定の行為(詳細は判決文からは不明だが、一審判決が認定した事実に基づく)を行った。一審判決およ…
事件番号: 昭和31(あ)1660 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
本件行為当時の情況上被告人に他の行為を期待することができない旨の主張があつた場合に、単に暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行の有罪事実を認定することは、間接的にも期待可能性なるものの存否につき判断を示したものとは認められない。
事件番号: 昭和42(あ)1053 / 裁判年月日: 昭和42年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合の行為であっても、暴力の行使に出ることは正当な団結権の行使とは認められず、労働組合法1条2項の刑事免責の対象とならない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として本件行為に及んだが、その態様は暴力の行使を伴うものであった。被告人らは、憲法28条が保障する団結権等に基づく正当な…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…