本件行為当時の情況上被告人に他の行為を期待することができない旨の主張があつた場合に、単に暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行の有罪事実を認定することは、間接的にも期待可能性なるものの存否につき判断を示したものとは認められない。
刑訴法第三三五条第二項の主張に対する判断が示されたものとは認められない事例。
刑訴法335条2項,刑訴法410条1項,刑訴法405条
判旨
労働組合による統制行為であっても、説得の範囲を超えて個人の自由意思を抑圧し、暴行を加える行為は、憲法28条や労働組合法1条2項の正当性を欠く。したがって、組合員間の紛争という側面があったとしても、暴力を用いた行為は刑事罰の対象となる。
問題の所在(論点)
労働組合員に対する統制行為として行われた暴行・脅迫的言動が、憲法28条および労働組合法1条2項にいう「正当な行為」として刑事免責を受けるか。
規範
労働組合の活動としての正当性は、その目的、手段、態様を総合的に考慮して判断される。組合の統制を目的とする行為であっても、許容される説得の範囲を逸脱し、個人の自由意思を不当に抑圧し、または暴力を行使する態様のものは、憲法28条の団結権・団体行動権の保障や労働組合法1条2項による刑事免責の範囲外であり、違法性が阻却されない。
重要事実
被告人等は労働組合の役員として、組合員Aに対し、組合の方針に従うよう説得・批判を試みた。その際、被告人等はAに対して暴行を加え、脅迫的な言動を交えながら、Aが恐れをなすような状況を作り出した。被告人らは、この行為が組合内部の紛争に過ぎず、憲法が保障する団体行動権の行使であると主張して、暴力行為等処罰に関する法律違反および暴行罪の成立を争った。
事件番号: 昭和38(あ)2188 / 裁判年月日: 昭和40年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合活動の一環として行われた行為であっても、暴行罪や脅迫罪等の刑法上の構成要件に該当する暴力的な態様を伴う場合には、労働組合法1条2項の正当行為として刑法35条による違法性阻却は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として特定の行為に及んだが、その態様が刑法上の暴行罪…
あてはめ
本件における被告人らの行為は、単なる仲間相互間の紛争や正当な説得の範囲に留まるものではない。第一審判決が認定した事実に照らせば、被告人らはAに対し暴行を加えており、これは個人の自由意思を抑圧する態様のものであるといえる。憲法21条(表現の自由)や28条(団結権)は、他者への暴力を伴う権利行使までを許容するものではなく、組合運営上の必要性があったとしても、暴力という手段を用いた時点でその正当性は失われる。
結論
被告人らの行為は正当な団体行動権の行使とは認められず、暴力行為等処罰に関する法律違反および暴行罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
労働組合活動における刑事免責の限界を画した事例。内部統制の文脈であっても、暴力や自由意思の抑圧を伴う行為は一律に正当性を失うことを示しており、答案作成上は団体行動の「手段・態様の相当性」を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…
事件番号: 昭和31(あ)3054 / 裁判年月日: 昭和32年4月25日 / 結論: 棄却
被告人らが株式会社Aと争議中、同会社の組合員数十名とともにスクラムを組んで甲外四名の同会社の女子従業員(いずれも非組合員)をとりかこみ、労働歌を高唱し、ワツシヨ、ワツシヨと掛声をかけて気勢をあげながら、約二〇分間にわたり右同従業員等に対し、押す、体当りするなどの行動を続ける所為は、憲法第二八条の保障する団体行動権の行使…
事件番号: 昭和38(あ)223 / 裁判年月日: 昭和39年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動権であっても、使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧するような行為は許容されない。労働組合法1条2項による刑罰阻却も正当な行為に限られ、暴行罪等に当たる行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として団体交渉等の団体行動を行った際、暴行罪や住…