被告人らが株式会社Aと争議中、同会社の組合員数十名とともにスクラムを組んで甲外四名の同会社の女子従業員(いずれも非組合員)をとりかこみ、労働歌を高唱し、ワツシヨ、ワツシヨと掛声をかけて気勢をあげながら、約二〇分間にわたり右同従業員等に対し、押す、体当りするなどの行動を続ける所為は、憲法第二八条の保障する団体行動権の行使にあたるものとはいえない。
憲法第二八条の保障する団体行動権の行使にあたらない一事例
刑法208条,憲法28条,労働組合法1条
判旨
労働組合法1条2項は、労働組合の行為に無条件で刑法35条の正当業務行為を適用するものではなく、暴行罪等の構成要件に該当する行為は、憲法28条の団体行動権の保障の範囲外として正当化されない。
問題の所在(論点)
労働組合による争議行為の一環として行われた暴行等の行為が、労働組合法1条2項および刑法35条により正当化され、違法性が阻却されるか。また、かかる行為が憲法28条の団体行動権として保障されるか。
規範
労働組合法1条2項による刑法35条(正当業務行為)の適用は無条件ではなく、行為が刑法上の暴行罪や脅迫罪等の犯罪に該当する場合には、これを正当な争議行為として免責することはできない。かかる暴力的な所為は、憲法28条が保障する団体行動権の行使にはあたらない。
重要事実
被告人らは、会社との争議中に組合員数十名でスクラムを組み、特定の5名を包囲した。その際、労働歌の高唱や掛声によって気勢を上げながら、約20分間にわたり、押す、体当たりをするなどの行為を継続し、多数で共同して相手方に暴行を加えた。
事件番号: 昭和38(あ)1052 / 裁判年月日: 昭和40年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項ただし書の「暴力の行使」に該当するか否かは、当該行為が社会通念上許容される限度を超えるものであるか否かによって判断される。社会通念上の限度を超えると認められる場合は、刑法上の正当行為(同法35条)としての違法性阻却を認めない。 第1 事案の概要:被告人らの原判示所為(具体的な事案…
あてはめ
本件において被告人らは、多数でスクラムを組み特定の人物を取り囲んだ上で、約20分間も押す・体当たりするなどの物理的力を行使している。この行為は刑法208条の暴行罪の構成要件に該当する。争議行為としての外形を備えていても、暴行罪を構成するような態様の行動は労働組合法1条2項が予定する正当な範囲を逸脱しており、刑法35条による正当化の余地はない。したがって、憲法28条の保障の範囲内にあるとはいえない。
結論
被告人らの所為は刑法208条の暴行罪にあたり、正当業務行為として違法性が阻却されることはないため、有罪とする原判決は妥当である。
実務上の射程
争議行為の正当性の限界(特に手段の正当性)に関するリーディングケースの一つ。答案上は、憲法28条や労組法1条2項を根拠とする刑事免責の限界として、「暴力的行為は正当性を欠き、違法性は阻却されない」とする文脈で使用する。同様の法理は三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)等でも確認されている。
事件番号: 昭和38(あ)2188 / 裁判年月日: 昭和40年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合活動の一環として行われた行為であっても、暴行罪や脅迫罪等の刑法上の構成要件に該当する暴力的な態様を伴う場合には、労働組合法1条2項の正当行為として刑法35条による違法性阻却は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として特定の行為に及んだが、その態様が刑法上の暴行罪…
事件番号: 昭和31(あ)1660 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
本件行為当時の情況上被告人に他の行為を期待することができない旨の主張があつた場合に、単に暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行の有罪事実を認定することは、間接的にも期待可能性なるものの存否につき判断を示したものとは認められない。
事件番号: 昭和35(あ)397 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
一 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項は、憲法第二一条に違反しない。 二 刑訴第四〇五条第二号または第三号にいう判例と相反する判断とは、法令の解釈適用について控訴審判決が何らかの判断をした場合においてその法律的判断が判例上の法律的判断と相反する場合をいう。
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…