所論は、第一審裁判所が被告人に対し、黙秘権を告げる前に、学校はどこまで行つたか等と尋問したこと、並びに証拠調に際し弁護人申請にかゝる証人からその取り調べを開始したことを捉え予断をもつて審理に当つたものであるから右は憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所の裁判とはいえないというのであるが、一審裁判所の右措置が何等違法でないことは原審の判示するところによつて明らかであり、これを目して予断であるとなす主張は独自の見解に過ぎないのであるからこれを理由とする違憲の主張はその前提を欠くものである。
憲法第三七条第一項に違反しない一事例 ―黙秘権告知前の若干の質問、弁護人申請証拠からの取調開始―
憲法37条1項,刑訴法291条2項,刑訴法311条,刑訴規則199条
判旨
裁判所には被告人側が申請した証人をすべて取り調べる義務はなく、証拠調べの順序や黙秘権告知前の身上調査等の訴訟指揮が直ちに公平な裁判所の原則に反することはない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人側の申請した証人の一部を取り調べないこと、および黙秘権告知前の発問や証拠調べの順序といった訴訟指揮が、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」による裁判を受ける権利を侵害するか。
規範
憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、裁判所が予断を持って審理に臨まないことを要するが、証拠調べの採否や順序、訴訟指揮の態様は原則として裁判所の裁量に属する。具体的には、被告人が申請した証人をすべて取り調べる義務はなく、また黙秘権告知前の身上調査や弁護人申請証人からの尋問開始といった措置が直ちに裁判の公平性を損なうものではない。
重要事実
恐喝未遂被告事件において、第一審裁判所が被告人に対し、権利告知を行う前に学歴等の身上に関する発問を行った。また、証拠調べの実施に際し、弁護人が申請した証人から取り調べを開始した。さらに、被告人側が申請した証人の一部を採用しなかった。被告人側は、これらの措置が裁判所の予断を示すものであり、憲法37条1項の公平な裁判所に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和24(れ)185 / 裁判年月日: 昭和24年7月9日 / 結論: 棄却
憲法第三七條第二項は裁判所が必要と認めて喚問した證人に對する規定であつて、裁判所が必要と認めない證人をも徒らに喚問し、被告人等に審問の機會を與うべしとの規定でないことは當裁判所屡次の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第八八號同年六月二五日大法廷判決、昭和二二年(れ)第二五三號昭和二三年七月一四日大法廷判決、昭和…
あてはめ
まず、証人採用については、裁判所は申請されたすべての証人を尋問する義務を負うものではない。次に、黙秘権告知前の学歴等の調査や、弁護人側の証人から順次取り調べる手法についても、一審裁判所の措置に違法な点は認められない。これら一連の訴訟指揮は、客観的にみて裁判官が予断を持って審理に当たったと評価すべき根拠にはならず、公平な裁判所としての実体を失わせるものではないといえる。
結論
本件各措置は違憲・違法ではなく、憲法37条1項に違反しない。したがって、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
刑事訴訟における裁判所の証拠採否の自由と訴訟指揮権の広さを確認した判例である。答案上は、証拠調べの必要性判断(刑訴法297条関連)や、手続的違反が公平な裁判所の原則にまで昇華するかを論ずる際の否定的な先例として活用できる。特に証人採用の裁量については、必要的証人尋問の例外を示唆する文脈で参照される。
事件番号: 昭和23(れ)833 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 棄却
しかし、憲法第三七條第二項に、刑事被告人はすべての證人に對し審問の機會を充分に與えられると規定しているのは、裁判所の職權により又は訴訟當事者の請求により喚問した證人につき、反對訊問の機會を充分に與えなければならないと言うのであつて、被告人に反對訊問の機會を與えない證人其他の者(被告人を除く)の供述を録取した書類は絶對に…
事件番号: 昭和28(あ)503 / 裁判年月日: 昭和29年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審における事実の取調べの要否は、特段の事情がない限り裁判所の裁量に属し、被告人が申請した証人をすべて喚問しなかったとしても憲法37条2項に反しない。 第1 事案の概要:被告側は、控訴審において証人尋問等の証拠調べを請求したが、裁判所はこれを実施しなかった。これに対し弁護人は、証人喚問を拒否した…
事件番号: 昭和27(あ)1327 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
刑訴二二七条により証人尋問をした裁判官は事件の審判から除斥されるものでもなく、所論裁判官は本件訴訟手続において忌避の申立を受けた事実もないのであり、且つ所論証人尋問調書を証拠とすることには被告弁護人も同意しているのであるから、公平な裁判所でないとの所論は採るを得ない。