判旨
第一審で証拠同意した供述調書につき、任意性に疑いがある等の主張を控訴趣意で明示しなかった場合、上告審において当該調書の証拠能力を争う違憲主張は適法な上告理由とならない。
問題の所在(論点)
第一審で証拠同意がなされ、かつ控訴審で任意性の欠如を具体的に主張しなかった場合、上告審において当該証拠の証拠能力を違憲(憲法38条2項等)を理由に争うことができるか。
規範
被告人が第一審において証拠とすることに同意(刑事訴訟法326条1項)した証拠について、その供述が強制・拷問等によるものであった(任意性に欠ける)という事実を控訴趣意において具体的に主張せず、原審が判断を示していない場合、上告審においてこれに類する違憲論を主張することは、適法な上告理由(同法405条)を構成しない。
重要事実
被告人が第一審において、特定の供述調書を証拠とすることに同意した。その後、控訴審において当該供述が強制・拷問等によるものであるといった任意性を争う主張を控訴趣意書で明確に行わなかった。原判決(控訴審判決)においても、任意性や証拠能力に関する判断は示されなかった。上告審に至り、弁護人は当該調書の採用が違憲である旨を主張した。
あてはめ
本件では、記録上、問題の供述調書について第一審で証拠同意があったことが認められる。さらに、被告人側は控訴審において、その供述が強制・拷問等によるものであるといった事情を何ら明らかに主張していない。その結果、原審(控訴審)もこの点について判断を下していない。したがって、事後審である上告審において、突如としてこの点を憲法違反の問題として持ち出すことは、適法な上告理由の提示とはいえない。
結論
本件上告は、刑訴法405条の上告理由にあたらない不適法なものとして棄却される。
実務上の射程
証拠同意の撤回や任意性の争点化は、原則として第一審または遅くとも控訴審の段階で行うべきであり、上告審で初めて主張することは許されないという「時期に後れた主張」を制限する実務を裏付ける。刑事訴訟法326条の同意の効果が、上告審における争点化を制限する側面を持つことを示す事例である。
事件番号: 昭和26(あ)233 / 裁判年月日: 昭和26年6月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意において主張されず、控訴審の判断を経ていない事項については、上告理由として適法に主張することはできない。また、長期拘禁後の自白にあたらないことが記録上明白な場合は、自白の任意性を否定する理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人が第一審において自白をしたが、その自白が長期拘禁後になされた…