判旨
業務上占有する他人の物を自己の利得のために処分する行為は、背任罪ではなく業務上横領罪を構成する。また、預金に際して実在する他人の氏名を使用したとしても、その名義人は虚無人とはいえない。
問題の所在(論点)
1. 業務上占有する他人の物を不法に領得する行為が、業務上横領罪と背任罪のいずれを構成するか。2. 実在する人物が預金に際して使用した別称を名義とした場合、その名義は虚無人とみなされるか。
規範
業務上、自己の占有する他人の物を不法に領得する意思をもって処分する行為は、業務上横領罪(刑法253条)を構成する。背任罪(刑法247条)との区別においては、任務違背により財産上の損害を与える行為が同時に不法領得意思に基づく占有の侵害を伴う場合、横領罪が成立し、背任罪は成立しない。また、預金等の契約において、実在する人物の氏名を借りて名義とした場合、その名義人は虚無人には当たらない。
重要事実
被告人は、業務上の地位に基づき管理・占有していた金員を、自己の利益を図る目的で処分した(判示第一及び第二(一))。また、被告人は預金に際して、実在する人物であるBが使用していたAという氏名を名義として用いた(判示第二(二))。弁護人は、これらの行為が背任罪に当たること、および名義人が虚無人であることを理由に上告した。
あてはめ
1. 被告人の行為(判示第一および第二(一))は、業務上の占有に基づく他人の物の領得行為である。これは権限を超えて所有者でなければできない処分をなすものであるから、原判決の通り、背任罪ではなく業務上横領罪として評価されるのが正当である。2. 被告人が預金名義に使用したAという氏名は、実在する人物Bが実際に使用していたものである。したがって、客観的に存在する主体との結びつきが認められ、架空の存在である「虚無人」には該当しない。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成し、背任罪には当たらない。また、使用された名義は虚無人のものではないため、原判決の判断に誤りはなく、本件上告は棄却される。
事件番号: 昭和30(あ)1162 / 裁判年月日: 昭和30年7月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判示事項としての判旨は示されていないが、本件のような状況において有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立することを肯定した。 第1 事案の概要:本件判決文からは具体的な事実関係は不明であるが、被告人が他人の名義を冒用して有印の私文書を作成した事案であると推認される。 第2 問題の所在(論点):被…
実務上の射程
横領と背任の区別について、占有の有無という伝統的な基準を前提に、横領罪が成立する場合には背任罪は排除される(特別関係)という実務上の運用を確認する際に有用である。また、文書偽造や詐欺の文脈で問題となる「虚無人名義」の該当性判断において、実在人物の通称使用が虚無人にあたらないとする判断手法を参考にする。
事件番号: 昭和26(あ)4331 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
貸付の権限のない公団の出納係が、業務上保管にかかる小切手金員等をほしいままに他人に流用したときは、右流用が貸付の形式をとつても不法領得の意思を実現したものであるから、業務上横領罪を構成する。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。
事件番号: 昭和29(あ)1681 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】会社の代表者が、会社の業務として他人のために占有する物を、会社を代表して保管している場合、当該代表者個人に業務上横領罪の「自己の占有する他人の物」という要件が認められる。 第1 事案の概要:木炭の生産を業とする会社の代表取締役社長である被告人は、会社が生産した木炭を他者に売り渡し、その所有権が他者…