判旨
不作為犯における公訴時効は、義務の履行等により違法状態が消滅した時から進行する。外国人登録の申請義務は所定期間の経過により消滅せず、履行されるまで継続するため、時効は期間経過時ではなく現実に登録された時から起算される。
問題の所在(論点)
不作為犯(登録不申請罪)における公訴時効の起算点(刑事訴訟法253条1項)は、法律が定める履行期間を経過した時点か、あるいは現実に義務を履行して違法状態が解消された時点か。
規範
作為義務の履行を命ずる法規における期間の定めは、単なる義務履行の猶予期間にすぎない。したがって、当該義務は期間の経過によって消滅するものではなく、対象者が当該状態にある限り、これを履行するまで継続する。よって、不作為による犯罪の公訴時効は、所定期間の経過時ではなく、その後の義務履行等によって違法状態が消滅した時から起算すべきである。
重要事実
被告人は、昭和22年5月2日公布の外国人登録令に基づき、施行から30日以内に登録申請を行う義務があった。しかし、被告人は当該期間(同年6月1日まで)に申請を行わず、実際に登録申請をしたのは昭和25年11月25日であった。検察官は昭和26年7月30日に起訴したが、原審は期間経過時の翌日から時効が進行するとして免訴の判決を下したため、検察官が上告した。
あてはめ
本件外国人登録令附則2項の「30日以内」という定めは、登録義務の履行を猶予する期間にすぎず、期間の経過によって登録義務自体が消滅するものではない。被告人の登録申請義務は、本邦に在留する限り、昭和22年6月1日を経過した後も継続していたと解される。したがって、本件登録不申請の違法状態が終了したのは、被告人が現実に登録申請を行った昭和25年11月25日である。この時点から公訴時効を起算すると、昭和26年7月30日の公訴提起時には、当時の公訴時効期間(3年)は経過していない。
結論
公訴時効は未完成であり、時効完成を理由に被告人を免訴した原判決及び第一審判決は破棄を免れない。本件を差し戻すべきである。
実務上の射程
継続犯や真正不作為犯における時効の起算点を判断する際のリーディングケースである。答案上は、義務の性質(期間経過で消滅するか否か)を論証した上で、刑訴法253条1項の「犯罪行為が終わつた時」を違法状態の消滅時(本件では義務履行時)と結びつけて論じる際に用いる。
事件番号: 昭和27(あ)753 / 裁判年月日: 昭和28年5月14日 / 結論: 破棄差戻
一 原判決が、所論のごとく、要するに外国人登録令に定める登録不申請罪は、所定期間の三〇日を徒過することにより既遂となると同時に犯罪実行々為も終了しその時から公訴の時効は進行するものと判断して、結局被告人に対し免訴の言渡をしたこと、並びに、所論引用の原判決の言渡前になされた各高等裁判所の判決が、要するに所定期間経過後にお…
事件番号: 昭和28(あ)948 / 裁判年月日: 昭和31年5月4日 / 結論: 破棄自判
昭和二二年勅令第二〇七号外国人登録令施行当時、同令第四条第一項附則第二項に違反し同令第一二条第二号の罪を犯した者が、昭和二四年政令第三八一号改正令施行後まで所定の登録申請をしなかつた場合には、新法である右改正令第一三条第一号を適用し処断すべきである。 (裁判官池田克の補足意見) 右改正令の施行に当つての経過法を定めた附…
事件番号: 昭和36(あ)2198 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において被告人への召喚手続に瑕疵があったとしても、弁護人が公判に出廷し防御の機会が確保されている限り、その瑕疵は判決に影響を及ぼすべきものとは認められない。また、不作為による継続犯である外国人登録申請義務違反の公訴時効は、義務の履行により不法状態が解消した時から進行する。 第1 事案の概要:…