一 原判決が、所論のごとく、要するに外国人登録令に定める登録不申請罪は、所定期間の三〇日を徒過することにより既遂となると同時に犯罪実行々為も終了しその時から公訴の時効は進行するものと判断して、結局被告人に対し免訴の言渡をしたこと、並びに、所論引用の原判決の言渡前になされた各高等裁判所の判決が、要するに所定期間経過後においても登録義務は依然存続しその間犯罪状態継続し公訴の時効期間はその義務終了の時から進行する旨の判断をしたものであることは所論のとおりである。従つて、原判決は、右各高等裁判所の判例と相反する判断をしたものといわなければならない。 二 外国人登録令施行の際本邦に在留する外国人で、同令附則第二項の規定に違反して三〇日以内に所定の登録申請をしなかつた者については、その登録義務を履行するまで不申請は継続して成立する。 三 外国人登録令附則第二項所定の三〇日以内に登録申請をしなかつた罪の公訴時効はその後当該外国人が本邦に在留する限りその登録義務を履行したときから進行する。 四 原判決引用の通牒(昭和二四年一一月一日法務府民事局民事甲第二四九一号(六)一五九号法務府民事法務長官、法務府刑政長官連名の各都道府県知事宛未登録外国人の新規登録申請に関する件)は、未登録外国人の新規登録申請あつたときは、市区町村長は一応これを受取りおき、退去命令又は退去強制の処分がなされるか否かを見定め、それがなされないで引続き本邦に在留することを許容されたとき正式に申請を受理して登録証明書を発行する簡捷な行政措置を執るよう指示したに止り、未登録外国人の新規登録申請を原則として受理しないことを命じたものとは解されないばかりでなくかかる通牒を以て前記勅令の登録申請義務を左右することのできないこと多言を要しない。
一 判例と相反する判断をした一事例 二 外国人登録不申請罪の性質 三 外国人登録令に違反して登録申請をしない行為の公訴時効の起算点 四 勅令の定める登録義務を通牒により左右することができるか
外国人登録令4条,外国人登録令12条,外国人登録令附則2項,外国人登録令附則3項,刑訴法405条,刑訴法250条,刑訴法253条1項,昭和24年政令381号外国人登録令附則7項,通牒(昭和24年11月1日法務府民事局民事甲2491号(6)159号法務府民事法務長官、法務府政長官連名の各都道府県知事宛未登録外国人の新規登録申請に関する件)
判旨
外国人登録令上の登録不申請罪は、不作為による義務違反が継続する継続犯であり、公訴時効は所定期間の経過時ではなく、義務の履行等により違法状態が消滅した時から進行する。
問題の所在(論点)
外国人登録令に定める登録不申請罪(義務履行期間のある不作為犯)の罪質、および公訴時効の起算点(刑事訴訟法253条1項)。
規範
法令が定める申請義務の履行期間は、単なる義務履行の猶予期間に過ぎない。当該義務は、法の目的(適正な行政措置の実施等)に照らし、期間経過によって消滅するものではなく、義務が履行されるまで継続する。したがって、その不履行を罰する罪は継続犯としての性質を有し、公訴時効は義務が履行され、又はその他の事由により義務が消滅した時から進行を開始する。
重要事実
被告人は、昭和22年5月2日施行の外国人登録令附則2項に基づき、施行から30日以内に登録申請を行う義務があったが、これを怠った。原審は、本罪を30日の経過とともに犯罪行為が終了する即時犯(または状態犯)と解し、公訴時効の完成を理由に免訴の言渡しをした。これに対し検察側が、登録義務は在留する限り継続するものであるとして上告した。
あてはめ
外国人登録令1条の目的は、外国人の入国・在留の適正な管理にある。附則2項の「30日以内」という期間制限は、早期登録の必要性を示すものではあるが、その期間を徒過したからといって登録の必要性が失われるわけではない。むしろ、適正な管理という目的を達するためには、在留する限り登録義務は継続すると解すべきである。また、行政上の通牒により新規登録が制限されているかのような運用があったとしても、それによって法令上の申請義務が左右されることはない。以上から、本罪は義務不履行という違法状態が継続する性質を持つため、時効は期間経過時ではなく、義務履行時を基準に起算されるべきである。
結論
本件登録不申請罪の時効は未だ完成していない可能性があるため、即時犯と解して免訴とした原判決には法令解釈の誤りがある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
不作為犯における継続犯と即時犯の区別に関する重要判例である。答案上は、単に「期間の定めがある」ことのみをもって即時犯と断定せず、当該規定の行政目的や義務の性質を検討し、違法状態が継続しているといえるか(義務が存続しているか)を論じる際の枠組みとして活用する。また、公訴時効の起算点という手続法上の論点と構成要件の罪質論を結合させる好例である。
事件番号: 昭和28(あ)319 / 裁判年月日: 昭和28年9月10日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】不作為犯における公訴時効は、義務の履行等により違法状態が消滅した時から進行する。外国人登録の申請義務は所定期間の経過により消滅せず、履行されるまで継続するため、時効は期間経過時ではなく現実に登録された時から起算される。 第1 事案の概要:被告人は、昭和22年5月2日公布の外国人登録令に基づき、施行…
事件番号: 昭和28(あ)948 / 裁判年月日: 昭和31年5月4日 / 結論: 破棄自判
昭和二二年勅令第二〇七号外国人登録令施行当時、同令第四条第一項附則第二項に違反し同令第一二条第二号の罪を犯した者が、昭和二四年政令第三八一号改正令施行後まで所定の登録申請をしなかつた場合には、新法である右改正令第一三条第一号を適用し処断すべきである。 (裁判官池田克の補足意見) 右改正令の施行に当つての経過法を定めた附…