他人のために所論のような代金を保管しているものは商慣習により判示短期間内は実体法上自己のために一時これを流用し得る権限が認められているというのではなくて、たとえ一時私にこれを費消することがあつても、判示短期間内にこれを填補さえすればその刑責を追及しないことが実際上の慣例である旨を判示した原判決は正当である。
他人のために業務上保管する代金を一時費消し短期間内に補堝した場合と横領罪の成否
刑法253条
判旨
業務上保管中の他人の金銭を一時的に流用する行為は、たとえ短期間の流用を黙認する商慣習があっても、実体法上の流用権限が認められない限り業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
商取引において、保管中の金銭を短期間流用することが商慣習上黙認されている場合、その流用行為について業務上横領罪が成立するか。商慣習が実体法上の流用権限(処分権限)を基礎付けるかが問題となる。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における不法領得の意思とは、委託の趣旨に反して、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。商慣習上、短期間の流用後に補填すれば刑責を追及しないという「事実上の慣例」があるに過ぎない場合、それは実体法上の流用権限を付与するものではなく、横領罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、AまたはB商店の委託に基づき商品を販売または仲介し、その代金を他人のために業務上保管していた。当該商取引においては、数日または最大限1週間程度の短期間であれば、代金の一時流用が「商慣習上ある程度まで黙認」されていた。被告人は、保管中の代金を自己のために一時的に私に費消した。
あてはめ
本件における商慣習は、短期間内に補填さえすれば「実際上の慣例」として刑責を追及しないという運用上の実態を指すに過ぎない。これは、保管者に対し、実体法上の権利として自己のために金銭を費消する「流用権限」を認める趣旨ではないと解される。したがって、被告人が委託の趣旨に反して代金を私に費消した行為は、権限なき処分であり、不法領得の意思の発現として業務上横領罪の構成要件に該当する。
結論
商慣習による黙認は実体法上の権限を付与するものではないため、一時的な流用であっても業務上横領罪が成立する。
実務上の射程
一時流用の主観的意図や補填の可能性があっても不法領得の意思が否定されないことを示す典型例。答案では、横領罪の成否において「事後の補填意思」や「事実上の黙認」が違法性や有責性を阻却しないことを論証する際に活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)4331 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
貸付の権限のない公団の出納係が、業務上保管にかかる小切手金員等をほしいままに他人に流用したときは、右流用が貸付の形式をとつても不法領得の意思を実現したものであるから、業務上横領罪を構成する。