判旨
買収罪において供与された金員が、過去の立替金の弁済とは無関係に交付されたものである場合、その全額が追徴の対象となる。原判決に事実誤認の解釈上の瑕疵があっても、第一審の追徴の結論が正当であれば、刑訴法411条による破棄を要しない。
問題の所在(論点)
公職選挙法違反の事案において、供与された金員の一部に債務の弁済が含まれる可能性がある場合、追徴すべき金額をどのように算定すべきか。また、原判決に第一審判決の趣旨に関する誤解がある場合、直ちに刑訴法411条により破棄すべきか。
規範
公職選挙法(旧224条、現236条の2)に基づく追徴の範囲は、犯罪行為によって得た利益の全額を対象とする。また、原判決に一部の事実誤認や判断過程の瑕疵が含まれていたとしても、結論において第一審判決の維持が正当であると認められる場合には、刑訴法411条の職権破棄事由には当たらない。
重要事実
被告人が公職選挙法違反(買収罪)に問われた事案。第一審は、被告人が供与した金2,000円について、過去の立替金620円の返還とは無関係に全額が供与されたものと認定し、2,000円全額の追徴を命じた。これに対し原判決(控訴審)は、第一審が「立替金の返還を含めて一括不可分の関係で供与された」と判断したものであると誤解した前提で立論していたが、結論としては第一審の追徴を是認し被告人の控訴を棄却した。
あてはめ
第一審の事実摘示および証拠説明によれば、本件2,000円は立替金とは無関係に供与されたものと認められる。したがって、立替金相当額を差し引くことなく、全額を追徴の対象とした第一審の判断は当然に正当である。原判決には、第一審の判断の趣旨を「一括不可分の関係における供与」と誤解した瑕疵があるものの、第一審の追徴額を是認して控訴を棄却したという結論自体は正当であるといえる。ゆえに、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない。
結論
本件金2,000円の全額について追徴を認めた第一審判決を維持した原判決の結論は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
追徴額の算定において、名目上の債務弁済が含まれる場合であっても、それが買収の趣旨でなされた実質的な利益供与であれば全額が対象となることを示唆する。また、控訴審の理由に誤りがあっても結論が正当であれば破棄されないという、刑訴法411条の適用制限に関する実務的な運用を裏付けるものである。
事件番号: 昭和28(あ)4080 / 裁判年月日: 昭和29年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙に関連して受領した金員が、検察官に対する供述等からその性質が「報酬」であると認められる場合には、公職選挙法違反の罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が選挙に関連して5,000円を受領した。この金員の性質について、被告人は検察官に対し、それが選挙に関する報酬である旨の供述を行っていた。弁護人…