選挙運動者が選挙運動の報酬として供与を受けた金員を自己の所有に帰せしめた以上、たとえその一部を事実上選挙運動の費用として支弁した事実があつても、報酬として受けた金員の金額についてすべて追徴すべく、また、その後残額と同額の金員を供与者に返還したからといつて供与者から追徴すべきではなく、受供与者たる右選挙運動者から、その価格を追徴すべきである(昭和二九年(あ)第三一〇八号同三〇年二月二日第二小法廷決定、裁判集一〇二号五四三頁・昭和二九年(あ)第一六六一号同年八月二四日第三小法廷判決、刑集八巻八号一四四〇頁参照)。
選挙運動者が選挙運動の報酬として供与を受けた金員を自己の所有に帰せしめた上、その一部を選挙運動の実費に充当した場合における追徴の範囲とその後残額と同額の金員を供与者に返還した場合の価額の被追徴者。
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法221条1項4号,公職選挙法224条
判旨
選挙運動の報酬として受けた金員が自己の所有に帰せしめられた以上、その一部を事後に選挙運動費用として支弁し、または残額を供与者に返還したとしても、収受した金員全額を被告人から追徴すべきである。
問題の所在(論点)
選挙運動の報酬として受領した金員を、後に選挙運動費用に充当したり、供与者に一部返還したりした場合、追徴の対象となる金額はどのように算定されるべきか。受供与者から全額を追徴できるか。
規範
公職選挙法違反(買収)等の罪において、選挙運動者が報酬として供与を受けた金員を一旦自己の所有に帰せしめた以上は、不法な利益は当該受供与者に帰属したものと解される。したがって、その後において当該金員をどのように処分(他への支弁や返還)したかを問わず、没収不能の場合には、受供与者である被告人からその価格の全額を追徴すべきである。
重要事実
被告人は選挙運動の報酬として金員の供与を受けたが、その一部を実際には選挙運動の費用として支弁した。また、その後、残額と同額の金員を供与者に返還した。このような事情がある場合に、被告人から追徴すべき金額が、返還額や支弁額を控除したものになるか、あるいは供与された全額になるかが争われた。
あてはめ
本件において、被告人は選挙運動の報酬として金員の供与を受けており、その時点で金員は被告人の所有に帰属したといえる。たとえその一部を事実上選挙運動の費用として支弁した事実があっても、それは収受した報酬の使途に過ぎず、不法に得た利益の総額を減少させるものではない。また、供与者に同額の金員を返還したとしても、一度成立した収受の事実および利益の帰属は左右されない。したがって、収受した報酬全額が追徴の対象となる。
結論
報酬として受けた金員の全額について、受供与者たる被告人からその価格を追徴すべきである。
実務上の射程
本判決は、贈収賄罪等における没収・追徴の一般原則と同様の論理を採用している。不法な利益が一度被告人に帰属した以上、その後の費消や返還という個人的事情は追徴額の算定に影響しないことを示したものであり、実務上も厳格に全額追徴を求める根拠となる。答案上は、没収不能による追徴の範囲を論じる際、利益の帰属時点を基準とすべき根拠として引用できる。
事件番号: 昭和29(あ)436 / 裁判年月日: 昭和29年7月14日 / 結論: 棄却
選挙運動につき、その報酬と費用との割合が明確にされず、従つて右両者を区別することなく包括して供与された金員は、その全額が没収または追徴の対象となる。