選挙運動に従事するものが、選挙運等の報酬として供与を受けた金員の一部を事実上、選挙運動の実費として支弁した事実があっても―その実費支弁を後に弁償を受け得るや否やはともかくして―報酬として受けた金員の全額について追徴を免れることはできないのである。
選挙運動者が供与を受けた金員の一部を選挙運動の実費に充当した場合における追徴の範囲
公職選挙法221条1項4号,公職選挙方224条
判旨
選挙運動の報酬として金員を受領した者が、その一部を実費として支弁した場合であっても、受領した金員の全額について追徴を免れることはできない。
問題の所在(論点)
選挙運動の報酬として受領した金員の一部を、受領者が事後的に実費として支弁した場合、その実費相当額を追徴額から控除できるか。
規範
公職選挙法違反等の罪に伴う追徴の範囲については、収受した報酬の総額を対象とする。収受した金員の一部が事後的に実費に充てられたとしても、その金員の性格が「報酬」として供与されたものである以上、実費相当分を控除することは認められない。
重要事実
被告人(上告人)らは、選挙運動に従事する者として、その選挙運動の報酬として金員の供与を受けた。被告人は、受領した金員の一部を事実上、選挙運動の際の実費として支弁したため、その実費分については追徴の対象から除外されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人が供与を受けた金員は、その名目および性質において「選挙運動の報酬」として受け取ったものである。後にその一部を自ら実費として支出した事実はあるが、その実費支出について後に弁償を受けられるか否かにかかわらず、収受した時点での全額が報酬としての性質を有している。したがって、支出した実費分を報酬総額から差し引くことは、追徴制度の趣旨に照らして許されないといえる。
結論
受領した金員が報酬である以上、その一部を実費に充てたとしても、受領した全額について追徴を免れることはできない。
実務上の射程
選挙犯罪における利得剥奪(追徴)の範囲を画定する際、名目上「報酬」として受け取ったのであれば、被告人側による事後の主観的な使途や実費への流用によって追徴額は減額されないという、追徴の客観的・徹底的な運用を裏付ける射程を有する。
事件番号: 昭和28(あ)5129 / 裁判年月日: 昭和29年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金員が報酬と費用の性質を併せ持ち、それらが不可分的に授受された場合には、その全額について報酬としての性質を肯定し得る。 第1 事案の概要:被告人らが金員を受領した際、その名目が報酬および費用の両方を含んでいた事案。弁護側は当該金員がすべて実費(費用)であると主張したが、第一審および原審は、当該金員…
事件番号: 昭和25(あ)2676 / 裁判年月日: 昭和26年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動の報酬および資金として供与された金員が、受領者の所得に帰したものと認められる場合には、その全額が追徴の対象となる。 第1 事案の概要:被告人Aは被告人Bに対し、選挙運動の報酬および資金として合計8万円を供与した。Bはこの趣旨を理解して当該金員を受け取り、その全額がBの所得に帰した。原審は、…