判旨
いわゆる限時法が有効期間を経過し、または告示の廃止により失効した場合であっても、それが特定の社会情勢への対処という事実上の必要に基づくものであれば、失効前の違反行為を処罰することは刑法6条および刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」には当たらない。
問題の所在(論点)
特定の事実上の事情に基づき定められた規制(限時法)が、その後の告示等によって廃止された場合、刑の廃止(刑法6条、刑訴法337条2号)があったものとして、失効前の違反行為について免訴を言い渡すべきか。
規範
特定の社会・経済的事情に対処するために制定されたいわゆる限時法において、有効期間の経過や告示の廃止により当該規制が解除されたとしても、それが法律の変更による刑の廃止という法的評価の変更ではなく、単に規制の根拠となった事実上の必要性が消滅したに過ぎない場合には、特段の規定がなくとも、行為時の違法性は失われず「刑の廃止」には当たらないと解する。
重要事実
被告人は、臨時物資需給調整法に基づく石油製品配給規則に違反する行為および価格統制に違反する行為を行った。その後、国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律の附則により、配給規則の効力は昭和27年6月30日までとされ、また石油の統制額についても経済安定本部告示により同日に廃止された。被告人側は、これらの規制廃止が「刑の廃止」に当たるとして免訴を主張し、上告した。
あてはめ
本件における石油製品の配給統制および価格統制は、当時の国際的供給不足や経済情勢という事実上の必要に基づく時限的な規制である。配給統制については法律附則により従前の行為を処罰する旨が明示されている。また、価格統制の廃止についても、告示による統制額の失効は、特定の経済情勢の変化に応じた事実上の変更に過ぎない。したがって、これらはいわゆる限時法の理論により、法的な評価としての刑の廃止があったものとは認められない。
結論
本件規制の失効は「刑の廃止」には当たらないため、失効前の違反行為については依然として処罰が可能である。したがって、被告人を免訴せず、上告を棄却した原判決は正当である。
事件番号: 昭和26(れ)1233 / 裁判年月日: 昭和27年2月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法令により刑が廃止されたときに当たるとされる場合でも、特定の告示の廃止が事実上の変更にとどまる場合には、刑訴法337条2号の免訴事由には該当しない。 第1 事案の概要:被告人が、当時の法令および告示に基づき禁止されていた行為(詳細は判決文からは不明だが、先行判例の引用から物価統制令等に関連…
実務上の射程
限時法(有効期間の定めがある法)や、事実上の事情に依拠する経済統制法規が、期間満了や事情変更により効力を失った場合の既往未決の行為の処罰の可否を判断する際のリーディングケースとなる。答案上は、単なる「刑の廃止」ではなく、規制の根拠が「法律的見解の変更」か「事実上の事情の変更」かを区別して論述する際に用いる。
事件番号: 昭和27(あ)2831 / 裁判年月日: 昭和27年11月28日 / 結論: その他
所論は大赦にかからない灯油等についてもその後の統制廃止により刑の廃止があつたと主張するのであるが、昭和二七年三月三一日法律第二三号国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律の附則四項によると、臨時物資需給調整法がなおその効力を有する間にした行為に対する罰則の適用については同法はその失効の日後もなおの効力…
事件番号: 昭和25(あ)11 / 裁判年月日: 昭和26年1月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後に統制額を指定した告示が廃止されても、刑訴法337条2号にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には該当しない。 第1 事案の概要:被告人は物価統制令3条に違反する行為を行った。その後、同令に基づき価格等の統制額を指定していた告示が廃止された。弁護人は、この告示の廃止が…
事件番号: 昭和25(あ)1147 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】経済統制法違反の犯罪成立後、当該告示が廃止されたとしても、それは刑罰そのものを廃止するものではない。したがって、刑法6条(法律の変更)や刑訴法337条2号(刑の廃止)は適用されず、免訴の判決をすべき理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人は経済統制法に違反する行為を行ったが、犯罪成立後にその根…
事件番号: 昭和25(れ)1672 / 裁判年月日: 昭和26年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後に統制額指定の告示が廃止されたとしても、刑訴法337条2号(旧刑訴法363条2号)にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には当たらない。いわゆる限時法や事実の変遷に伴う規制の廃止は、法の反省的考慮に基づく刑の廃止とは区別される。 第1 事案の概要:被告人が、物価統制令…