所論は大赦にかからない灯油等についてもその後の統制廃止により刑の廃止があつたと主張するのであるが、昭和二七年三月三一日法律第二三号国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律の附則四項によると、臨時物資需給調整法がなおその効力を有する間にした行為に対する罰則の適用については同法はその失効の日後もなおの効力を有する旨を規定しているのであるから、前記灯油類の統制の廃止があつたからといつて、刑の廃止があつたということはできない(なおこの点につき、当裁判所昭和二四年(れ)第二二四〇号同二六年三月二三日第二小法廷判決、判例集五巻四号六二二頁参照)。
大赦にかからない灯油類の統制の廃止と刑の廃止
臨時物資需給調整法1条,刑訴法337条,石油製品配給規則11条,昭和27年法律23号国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律附則4項
判旨
臨時物資需給調整法が効力を有する間になされた違反行為について、その後の統制廃止や法改正にかかわらず、経過規定により罰則の適用が維持されている場合には、刑法6条及び刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」には当たらない。
問題の所在(論点)
経済情勢の変化に伴い特定の物資の統制が廃止された場合、または臨時物資需給調整法が失効した後に経過規定(失効前の行為に罰則を適用する旨)がある場合、刑法6条や刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」が認められるか。
規範
特定の時限的・臨時的な経済統制法規において、法が失効した後も失効前の行為に対する罰則の適用を維持する旨の経過規定が存在する場合、当該規定に基づき罰則の適用が継続される。この場合、事実上の統制廃止があったとしても、法律上の「刑の廃止」には該当しない。
重要事実
被告会社は、灯油、軽油、揮発油、重油等の販売に関し、当時の臨時物資需給調整法及び石油製品配給規則に違反したとして公訴提起された。一審及び二審で有罪とされたが、上告審の段階で、一部の油類については大赦がなされた。また、残る灯油等の油類についても、その後の経済情勢の変化に伴う統制の廃止(規制緩和)により、実質的に刑の廃止があったとして、免訴されるべきではないかが争われた。
事件番号: 昭和27(あ)4912 / 裁判年月日: 昭和28年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】臨時物資需給調整法に基づく石油製品配給規則等が失効した場合であっても、法律の附則に「失効前の行為に対する罰則の適用については、なおその効力を有する」旨の経過規定があるときは、刑法6条(刑の廃止)には当たらず、処罰は維持される。 第1 事案の概要:被告人は、当時の「石油製品配給規則」等に違反する行為…
あてはめ
本件における灯油等の統制廃止について検討すると、「国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律」附則4項には、臨時物資需給調整法が効力を有する間にした行為に対する罰則の適用については、同法が失効した後もなおその効力を有する旨が規定されている。このような経過規定が存在する以上、特定の物資(灯油等)の統制が事実上廃止されたとしても、法律上の評価として罰則が撤廃されたわけではない。したがって、刑の廃止があったとは解されない。
結論
灯油等の統制廃止による刑の廃止は認められない。被告会社に対し、大赦の対象外である灯油等の違反事実について罰金5万円を科した第一審判決の結果を維持しつつ、大赦の対象となった事実については免訴とするため、原判決を破棄し自判する。
実務上の射程
限時法の失効や統制法令の改正に伴う「刑の廃止」の成否を判断する際の基準となる。特に「法律の変更」が単なる事実上の変更(経済事情の変化等)か、それとも反省的考慮に基づく法的評価の変更(刑の廃止)かを区別する議論(いわゆる限時法論)において、経過規定の存在が「刑の廃止」を否定する決定的な根拠となることを示している。
事件番号: 昭和28(あ)2234 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】いわゆる限時法が有効期間を経過し、または告示の廃止により失効した場合であっても、それが特定の社会情勢への対処という事実上の必要に基づくものであれば、失効前の違反行為を処罰することは刑法6条および刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、臨時物資需給調整法に基…
事件番号: 昭和29(あ)738 / 裁判年月日: 昭和29年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律に基づき定められた規則等が廃止された場合であっても、経過規定等により刑の廃止にあたらないと解される場合には、刑法6条の「刑の変更」や刑訴法337条2号の「刑の廃止」には該当しない。 第1 事案の概要:被告人らは、臨時物資需給調整法および石油製品配給規則に違反したとして起訴された。原審判決後、当…
事件番号: 昭和27(あ)2952 / 裁判年月日: 昭和28年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】臨時物資需給調整法の失効前にした行為に対し、失効後も罰則の適用を認める経過規定が存在する場合、刑の廃止(刑訴法402条4号等)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が石油製品配給規則違反に問われた事案。同規則の根拠法である臨時物資需給調整法は、昭和27年7月1日以降廃止された。しかし、同法廃止…
事件番号: 昭和25(れ)1781 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
繊維製品の指定に関する商工省告示の廃止および衣料品配給規則の一部施行停止は、その廃止または施行停止以前に行われた違反行為の可罰性に何らの影響を与えるものではない。