論旨は、原判決が不利益変更禁止の規定に反するというのであるが、何が不利益であるかは必ずしも刑訴九、一〇条の刑の順序に従うとのみはいえないけれども、これを全体として観察し、懲役刑が減軽されてその刑の執行が猶予された場合には罰金刑が増額されていても刑訴四〇二条に反しないこと明らかである(昭和二六年(れ)一八二六号同年一一月二七日第三小法廷判決刑集五、一三、二四五七頁参照)。所論は違憲の前提を欠く。
第一審で懲役四月罰金一万円、第二審で懲役三月二年間刑の執行猶予及び罰金一万五千円を言渡した場合と不利益変更禁止の原則違反の有無
刑法9条,刑法10条,刑訴法411条,刑訴法402条
判旨
不利益変更禁止の判断にあたっては、刑の種類や量刑を全体として観察すべきであり、懲役刑が減軽され執行猶予が付された場合には、罰金刑が増額されても不利益な変更には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、懲役刑を減軽して執行猶予を付す一方で罰金額を増額する判決が、刑事訴訟法402条の「第一審判決の刑より重い刑を言い渡すことができない」とする不利益変更禁止の原則に抵触するか。
規範
刑事訴訟法402条が規定する不利益変更禁止の原則に反するか否かは、単に各個の刑の種類や重さを個別に比較するのではなく、宣告された刑を全体として観察して判断すべきである。具体的には、自由刑の減軽及び執行猶予の付与という利益と、罰金額の増加という不利益を総合的に比較衡量して決する。
重要事実
被告人が控訴したところ、原判決(控訴審判決)において、第一審判決よりも懲役刑が減軽され、かつその刑の執行を猶予する旨の言い渡しがなされた。その一方で、併科または選択された罰金刑については、第一審の金額よりも増額された。弁護人は、この罰金刑の増額が不利益変更禁止の規定に違反し、憲法にも反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原判決は懲役刑を減軽した上で執行猶予を付しており、被告人にとって身体の自由という観点から重大な利益を与えている。何が被告人にとって不利益であるかは、必ずしも刑法9条・10条が定める刑の軽重の順序のみによって機械的に決まるものではない。刑を全体として観察すれば、自由刑の執行を猶予される利益は、罰金額が増額される不利益を上回るものと評価できる。したがって、全体として第一審判決よりも重い刑を言い渡したものとはいえない。
結論
懲役刑が減軽され執行猶予が付された場合には、罰金刑が増額されていても刑訴法402条の不利益変更禁止の原則には反しない。
実務上の射程
不利益変更の有無を「全体としての観察」により判断する実務上の端緒となる判例である。答案上では、異種の刑が組み合わされた判決(懲役+罰金等)の比較において、刑法10条の形式的基準によらず、被告人の受ける実質的な不利益を総合評価する際の根拠として活用する。特に執行猶予の有無は極めて重要な要素として考慮される。
事件番号: 昭和23(れ)614 / 裁判年月日: 昭和23年10月12日 / 結論: 棄却
被告人は、第一審判決で罰金一萬五千圓の刑を言渡されたのに、第二審ではそれよりも重く懲役四ケ月の判決を受けたことを意外とし、人權擁護の明文が新憲法にあるならばかようなことのあるべき筈がないと思う、と述べているが、これは第二審に於て檢察官の附帶控訴があつたために、被告人の控訴した事件に付ては原判決の刑より重き刑を言渡すこと…
事件番号: 昭和26(れ)1826 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
本件において、第一審判決は被告人を懲役三年及び罰金三〇万円(罰金不完納の場合における労役場留置期間の言渡を遺脱)に処したのに対し、原控訴審判決は被告人を懲役三年但し五年間刑の執行猶予及び罰金四〇万円(前金不完納の場合に金一、〇〇〇円を一日に換算した期間労役場留置)に処したのであるから、原控訴審判決は少しも前記大審院判決…