論旨は、被告人に對する第一審判決は懲役刑だけを言渡し、罰金刑の言渡はなく、檢事の控訴もないのに、第二審判決が懲役刑のほか罰金刑をも併科したのは違法であるというのであるが、記録に徴すれば、被告人に對する第一審判決は懲役十月に處する旨の言渡をしているのに對し、第二審判決は懲役刑に於いてこれより輕い懲役六月を量定し、且つその刑を四年間執行猶豫する旨言渡しているので、第二審判決が右懲役刑の外に罰金一萬圓を併科言渡したからといつて、何ら舊刑訴法第四〇三條の規定に違反するものではない。
第二審判決が第一審判決より輕い懲役刑を量定し別に新たにその刑の執行を猶豫したうえ罰金を併科した場合と不利益變更の禁止
舊刑訴法403條
判旨
食糧管理法に基づく米麦の政府売渡手続において、指定期限までに所定の機関に対し売渡委託を行わなかった場合は、売渡義務に違反したものと認められる。また、不利益変更禁止の原則に関し、第一審の懲役刑に対し、控訴審が懲役刑を減軽した上で執行猶予を付し、新たに罰金刑を併科しても、刑全体として不利益に変更されたとはいえない。
問題の所在(論点)
1.食糧管理法に基づく米の売渡義務の不履行が認められるか。2.第一審の懲役刑に対し、控訴審が懲役刑を減軽しつつ執行猶予を付し、新たに罰金刑を併科することは、不利益変更禁止の原則(旧刑訴法403条、現行402条)に違反するか。
規範
1.食糧管理法上の売渡義務は、生産者が割当数量の米麦を特定・保管し、指定期限までに所定の機関に対し政府へ売り渡す旨の委託をすることによって履行される。2.不利益変更禁止の原則(旧刑訴法403条)については、主文に掲げられた刑の種類・刑期・執行猶予の有無等を総合的に比較し、全体として被告人に不利益となるか否かで判断する。
重要事実
被告人は、政府に売り渡すべき米として割り当てられた18俵余のうち、約9俵分について、地方長官の指定した期限までに所定の機関に対し売渡委託を行わなかった。第一審判決は被告人を懲役10月に処したが、被告人のみが控訴したところ、第二審判決は懲役6月(執行猶予4年)および罰金1万円を併科した。被告人は、売渡委託は完了していると主張し、また検察官の控訴がないのに罰金刑を併科したのは不利益変更禁止の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
1.被告人は、指定期限までに所定機関への売渡委託を行っておらず、売渡義務を履行したとは認められない。仮に供出代金の支払があったとしても、それは将来の委託を予想した「空検査」に基づく可能性があり、直ちに義務履行を基礎付けるものではない。2.第二審判決は、第一審の懲役10月という実刑に対し、懲役6月に減軽した上で4年間の執行猶予を付している。新たに罰金1万円を併科したとしても、実刑を免れ執行猶予が付された全体的な刑の状態を考慮すれば、第一審の判決よりも被告人に不利益なものになったとはいえない。
結論
1.期限内に所定の委託手続を行わない以上、売渡義務不履行の罪が成立する。2.懲役刑の減軽・執行猶予付加に伴う罰金刑の併科は、不利益変更禁止の原則に違反しない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則において、刑の軽重は単なる刑の種類のみならず、執行猶予の有無や期間を含めた全体的な有利・不利で判断されるという実務上の規範を示している。現行刑事訴訟法402条の解釈においても同様の枠組みが維持されており、答案上では「刑全体として被告人に不利益か」を検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)614 / 裁判年月日: 昭和23年10月12日 / 結論: 棄却
被告人は、第一審判決で罰金一萬五千圓の刑を言渡されたのに、第二審ではそれよりも重く懲役四ケ月の判決を受けたことを意外とし、人權擁護の明文が新憲法にあるならばかようなことのあるべき筈がないと思う、と述べているが、これは第二審に於て檢察官の附帶控訴があつたために、被告人の控訴した事件に付ては原判決の刑より重き刑を言渡すこと…
事件番号: 昭和24(れ)3036 / 裁判年月日: 昭和25年4月25日 / 結論: 破棄自判
第一審は被告人に對し懲役四ケ月及罰金二萬圓、右罰金を完納することができないときは百日間勞役場留置の判決を宣告し、第二審は懲役四ケ月及罰金二萬圓、右罰金を完納することができないときは百圓を一日に換算した期間勞役場留置の判決を宣告したのであつて、この原判決主文の換刑處分は第一審判決の留置期間より長いのである。元來勞役場留置…
事件番号: 昭和26(れ)1826 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
本件において、第一審判決は被告人を懲役三年及び罰金三〇万円(罰金不完納の場合における労役場留置期間の言渡を遺脱)に処したのに対し、原控訴審判決は被告人を懲役三年但し五年間刑の執行猶予及び罰金四〇万円(前金不完納の場合に金一、〇〇〇円を一日に換算した期間労役場留置)に処したのであるから、原控訴審判決は少しも前記大審院判決…