本件起訴状には強取物件として「衣類等十点等」と記載されており、第一審判決は右物件の内容点数、所有関係等を明示したにすぎないのであるから、それによつて訴因の同一性は何ら害されていないばかりでなく(刑訴二五六条三項後段参照)、被告人等の防禦に事実上不利益を及ぼす虞れのなかつたことは、本件訴訟の経過に徴し明らかであるから、原判決が、所論控訴趣意を排斥したことは、因より正当である。
訴因変更とならない事例
刑訴法256条3項後段,刑訴法312条
判旨
起訴状に記載された強取物件の内容を、判決においてより詳細に明示することは、訴因の同一性を害さず、被告人の防御に不利益を及ぼさない限り適法である。
問題の所在(論点)
起訴状に「衣類等十点等」と概括的に記載された強取物件について、判決がその詳細(内容・点数・所有関係等)を明示することは、訴因の同一性を害し、または被告人の防御を不当に制限するものとして違法となるか。
規範
公訴事実の記載において、特定の事項が概括的に記載されている場合であっても、それが他の事実と区別して特定できる程度のものであれば、判決においてその内容、点数、所有関係等を詳細に明示することは許容される。その判断にあたっては、訴因の同一性を害しないか、及び被告人の防御に事実上の不利益を及ぼすおそれがないかを基準とする(刑事訴訟法256条3項、訴因変更の要否に関する法理を準用)。
重要事実
被告人らは強盗殺人罪で起訴されたが、起訴状における強取物件の記載は「衣類等十点等」と概括的なものであった。これに対し、第一審判決は、証拠に基づき当該物件の具体的な内容、点数、および所有関係などを詳細に認定し、判示に明示した。弁護人は、このような判決が起訴状の記載を超えた事実認定を行っており、訴因の同一性や防禦権を侵害すると主張して上告した。
あてはめ
本件起訴状では強取物件として「衣類等十点等」と記載されており、物件の範囲はある程度特定されていた。第一審判決がその物件の具体的な内容や点数、所有関係を明示したことは、起訴状の記載を具体化したにすぎず、訴因の同一性を何ら害するものではない。また、本件の訴訟経過に照らせば、このような詳細な認定によって被告人の防御に事実上の不利益を及ぼすおそれがあったとは認められない。したがって、訴因変更の手続きを経ることなく判決で詳細を明らかにすることは適法である。
結論
本件の判決が強取物件の詳細を明示したことは正当であり、刑事訴訟法256条3項後段の趣旨に反せず、防御権の侵害も認められない。
実務上の射程
概括的記載の訴因と判決の不一致が問題となる場面で活用できる。特に窃盗や強盗の目的物について、判決でその詳細を特定することが「訴因の範囲内」の具体化なのか、あるいは「訴因変更」を要する別事実の認定なのかを区別する際の考慮要素(不利益の有無・同一性)として引用すべき判例である。
事件番号: 昭和22(れ)438 / 裁判年月日: 昭和23年7月22日 / 結論: 棄却
強盜罪の構成要件たる「他人ノ財物」を判示するには、犯人及び共犯者以外の者の所有に屬する如何なる財物なりや等要するに、法令の適用の基礎を明らかにするに必要な程度に具體的であれば足りる。
事件番号: 昭和24(れ)552 / 裁判年月日: 昭和24年7月14日 / 結論: 棄却
しかし、有罪判決に示すべき強盜罪の一構成要件たる「他人の財物」であることを判示するには、該構成要件に該當するか、否かを判定するに足る程度の具體的事實を掲げさえすれば差支えないものであつて所論のように、目的物の確定數を表示することを要するものではない。そして原判決は、A所有の中古三つ揃背廣服一着外衣類七點位と判示していて…