判旨
犯罪後の法令改廃により罰則が廃止された場合であっても、経過規定により「なお従前の例による」とされるときは、憲法31条や39条に抵触せず、当該行為時の罰則を適用して処罰することができる。
問題の所在(論点)
法律の改廃により罰則が廃止された後、経過規定に基づき施行前の行為を旧法で処罰することが、憲法31条(法律による処罰)および39条(事後法の禁止)に抵触するか。
規範
法令が廃止された場合において、当該法律の経過規定により「この法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」と定められているときは、憲法31条(適正手続)および憲法39条(刑罰不遡及・一事不再理)に違反せず、当該行為に対して廃止前の罰則を適用することが可能である。
重要事実
被告人は「連合国占領軍財産等収受所持禁止令」に違反する行為を行った。しかし、原判決の時点において、同令は「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律」によって既に廃止されていた。もっとも、同法律の経過規定(3条1項)には「この法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」との定めがあった。弁護人は、廃止された罰則を適用することは憲法31条・39条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において適用された「連合国占領軍財産等収受所持禁止令」は、確かに後続の法律によって廃止されている。しかし、当該法律第3条1項は、施行前の行為に対する罰則適用について「なお従前の例による」と明示している。このような経過規定が存在する場合、行為時に犯罪として規定されていた行為に対し、その当時の罰則を適用して処罰を継続することは、憲法が保障する適正手続や刑罰不遡及の原則を害するものではない。したがって、廃止後の法律に基づき旧法の罰則を適用した原判決に憲法違反の違法は認められない。
結論
経過規定に基づき、施行前の行為に対し廃止された旧法の罰則を適用して処罰することは合憲であり、適法である。
事件番号: 昭和30(あ)2219 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】連合国占領軍財産等収受所持禁止令は、占領目的の達成のみならず国内経済秩序の維持という公共の福祉をも目的とするため、平和条約発効後も当然に失効せず、その効力を維持させた法律も事後立法には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)に違反する行為…
実務上の射程
法令の改廃があった場合の「刑の廃止」(刑法6条、刑訴法337条2号)との関係が問題となる。本判決は、経過規定がある場合には、実質的に刑が廃止されたとはみなされず、訴訟手続上も免訴とすべきではないとする実務上の準拠を示している。答案上は、法令変更時の処罰の可否を論ずる際の憲法的根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3996 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
一 昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)第一条は、憲法第二九条に違反しない。 二 右昭和二四政令第三八九号は、憲法第三一条に違反しない。 三 所論は、昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)を廃止すると共に、「この法律の施行前にした所為に対する罰則の適用については、なお従前の…
事件番号: 昭和27(あ)4433 / 裁判年月日: 昭和29年6月18日 / 結論: 棄却
昭和二四年政令第三八九号は昭和二七年法律第一三七号により昭和二七年五月七日廃止されたことは所論のとおりであるが、同法第三条により右廃止前にした右政令第一条違反の行為については従前の例により処罰すべきものである。註。本件は軍票の収受。
事件番号: 昭和28(あ)4769 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和20年勅令第542号及びそれに基づく政令は、平和条約の発効により当然に失効するものではなく、廃止後の罰則存続規定により、廃止前の違反行為を処罰することは憲法上許容される。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令第389号に違反する行為を行った。その後、昭和27年に平和条約が発効して占領が終…
事件番号: 昭和27(あ)5221 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占領政策の遂行と国内経済秩序の維持を目的とする政令による財産権の制限は、憲法29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(貴金属の処分の制限等に関する政令)1条に違反する行為を行った。占領終了後も同政令の違反行為を処罰する昭和27年法律137号3条の経過規定に基づき起訴…