一 昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)第一条は、憲法第二九条に違反しない。 二 右昭和二四政令第三八九号は、憲法第三一条に違反しない。 三 所論は、昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)を廃止すると共に、「この法律の施行前にした所為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨規定した昭和二七年法律第一三七号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律)は、憲法第三九条に違反する旨主張する。しかし、昭和二四年政令第三八九号の規定内容が憲法第二九条に違反しないことは、前示のとおり(判決参照)であるから、その違反することを前提として同令を平和条約発効と同時に失効したものと見ることはできない。従つて、同年法律第一三七号をもつて、一度失効して効力のなくなつた罰則を更に復活させて爾後において過去の行為に遡及適用せしめようとするいわゆる事後立法であるとする所論も、その前提を欠き採るを得ない。
一 昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)第一条と憲法第二九条 二 右昭和二四年政令第三八九号と憲法第三一条 三 昭和二七年法律第一三七号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律)第三条と憲法第三九条
昭和24年政令389号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)1条,昭和24年政令389号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)4条,昭和27年法律81号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律)1項,昭和27年法律81号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律)2項,昭和27年法律137号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律)2条2号,昭和27年法律137号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律)3条,憲法29条,憲法31条,憲法39条
判旨
連合国占領軍の軍票の収受等を禁止したポツダム宣言受諾に伴う政令は、国内経済秩序の維持という公共の福祉を目的とするものであり、憲法29条に違反しない。また、当該政令が失効する前の行為に対し、廃止後の法律で罰則を適用し処罰することは、事後立法による処罰を禁じた憲法39条に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 軍票の所持・収受を禁止する本件政令が憲法29条の財産権保障に違反するか。 2. 本件政令が日本国憲法外の効力を有するものとして憲法31条に違反するか。 3. 本件政令の廃止後、経過規定に基づき廃止前の行為を処罰することが憲法39条に違反するか。
規範
事件番号: 昭和27(あ)5221 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占領政策の遂行と国内経済秩序の維持を目的とする政令による財産権の制限は、憲法29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(貴金属の処分の制限等に関する政令)1条に違反する行為を行った。占領終了後も同政令の違反行為を処罰する昭和27年法律137号3条の経過規定に基づき起訴…
1. 財産権(憲法29条)は、絶対無制限のものではなく、公共の福祉による制限を受ける。国内経済秩序の維持、通貨の安定という目的のために、特定の財産的価値の流通を制限・禁止することは、公共の福祉による正当な制限として認められる。 2. 憲法39条が禁ずる事後立法とは、行為時に適法であった行為をその後の立法で遡及的に処罰すること、またはすでに失効した罰則を遡及的に適用することを指す。有効に存続していた法令が廃止される際、経過規定により廃止前の行為を従前の例により処罰することは、既罰性を維持するものにすぎず、事後立法には当たらない。
重要事実
被告人は、連合国占領軍の軍票等の収受または所持を禁止した「連合国占領軍の軍票等に関する件」(昭和24年政令389号。以下「本件政令」)に違反した。本件政令は、連合国軍の占領政策遂行および国内経済秩序の維持を目的として制定されたものである。その後、昭和27年法律137号(以下「廃止法」)により本件政令は廃止されたが、同法には「施行前にした所為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」との経過規定が置かれていた。被告人は、本件政令が憲法29条(財産権)や31条(適正手続)に違反して無効であり、また廃止法による処罰が憲法39条(遡及処罰の禁止)に違反すると主張して免訴を求めた。
あてはめ
1. 本件政令は、軍票の無制限な流通によるわが国通貨の安定阻害を防ぎ、国内経済秩序を維持するという「公共の福祉」を目的としている。かかる目的のための規制は正当であり、憲法29条に違反しない。 2. ポツダム宣言受諾に伴うポツダム命令(昭和20年勅令542号およびこれに基づく本件政令)は、憲法外において法的効力を有する特殊な法形式であり、国会制定法でないことをもって直ちに憲法31条違反とはならない。 3. 本件政令が憲法に違反せず有効である以上、平和条約発効と同時に当然に失効したとは認められない。したがって、有効期間中の行為に対し、廃止法の経過規定(従前の例による)を適用することは、一度失効した罰則を遡及的に復活させる「事後立法」には当たらず、憲法39条に違反しない。
結論
本件政令および廃止法の経過規定は憲法29条、31条、39条のいずれにも違反しない。したがって、被告人を免訴すべきとの主張は理由がなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、ポツダム命令の合憲性を前提としつつ、法令廃止時における「なお従前の例による」という経過規定が憲法39条の事後立法に該当しないことを明確にした。答案作成上は、刑罰法令の改廃に伴う遡及処罰禁止の議論において、行為時法が有効であったことを前提とする限り、経過規定による処罰は憲法39条に抵触しないという理屈を用いる際の根拠となる。
事件番号: 昭和30(あ)2219 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】連合国占領軍財産等収受所持禁止令は、占領目的の達成のみならず国内経済秩序の維持という公共の福祉をも目的とするため、平和条約発効後も当然に失効せず、その効力を維持させた法律も事後立法には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)に違反する行為…
事件番号: 昭和29(あ)156 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】ポツダム宣言に基づき制定された、いわゆるポツダム勅令及びそれに基づく政令は、日本国憲法外の法的効力を有するものであり、占領終了後においても憲法29条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が、昭和24年政令389号等の規定に違反したとして起訴された事案。被告人側は、占領終了後において当該…
事件番号: 昭和27(あ)6708 / 裁判年月日: 昭和29年8月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法令改廃により罰則が廃止された場合であっても、経過規定により「なお従前の例による」とされるときは、憲法31条や39条に抵触せず、当該行為時の罰則を適用して処罰することができる。 第1 事案の概要:被告人は「連合国占領軍財産等収受所持禁止令」に違反する行為を行った。しかし、原判決の時点におい…
事件番号: 昭和27(あ)1186 / 裁判年月日: 昭和28年7月18日 / 結論: 棄却
所論は、昭和二四年政令第三八九号1条の規定は、いわゆるポツダム勅令による委任の範囲即ち昭和二〇年勅令五四二号にいう「聯合国最高司令官ノ為ス要求ニ係ル事項」を逸脱した無効の法令であり、これを適用した原判決は憲法三一条に違反すると主張し、右政令第三八九号一条にいう「収受」「所持」なる意義につき独自の解決をして、原判決の説示…