所論は、昭和二四年政令第三八九号1条の規定は、いわゆるポツダム勅令による委任の範囲即ち昭和二〇年勅令五四二号にいう「聯合国最高司令官ノ為ス要求ニ係ル事項」を逸脱した無効の法令であり、これを適用した原判決は憲法三一条に違反すると主張し、右政令第三八九号一条にいう「収受」「所持」なる意義につき独自の解決をして、原判決の説示を非難するが、所論のように委任の範囲を逸脱しているものとは認められない。
連合国占領軍財産等収受所持禁止令第一条と昭和二〇年勅令第五四二号及び憲法第三一条との関係
連合国占領軍財産等収受所持禁止令(昭和24政令389号)1条昭和20年勅令542号,憲法31条
判旨
憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、裁判所の組織構成において偏頗(へんぱ)の恐れがない裁判所を意味する。ポツダム勅令による委任の範囲を逸脱しない政令の適用は、憲法31条に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 憲法37条1項にいう「公平な裁判所」の意義、および裁判官の法令解釈の当不当が同条違反を構成するか。2. 委任の範囲を逸脱しない政令の適用が憲法31条に違反するか。
規範
憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、主観的な裁判官の姿勢を指すのではなく、裁判所の組織構成において偏頗の虞(おそれ)がないような裁判所を意味する。また、上位法令の委任に基づく政令が、その委任の範囲を逸脱していない限り、当該政令の適用が憲法31条の適正手続に反することはない。
重要事実
被告人は、昭和24年政令第389号1条(ポツダム勅令に関連する法令)に違反する「収受」および「所持」の罪で起訴された。被告人側は、当該政令が委任の範囲を逸脱した無効なものであり、これを適用することは憲法31条に違反すると主張した。さらに、原審の法令解釈が不当であるとして、憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」による裁判を受ける権利を侵害していると主張して上告した。
事件番号: 昭和28(あ)3996 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
一 昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)第一条は、憲法第二九条に違反しない。 二 右昭和二四政令第三八九号は、憲法第三一条に違反しない。 三 所論は、昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)を廃止すると共に、「この法律の施行前にした所為に対する罰則の適用については、なお従前の…
あてはめ
1. 憲法37条1項の保障は、特定の具体的裁判における判断の当不当を争うためのものではなく、裁判所の組織や構成の客観的な中立性を担保するものである。本件における原審の法令解釈に対する不満は、裁判所の組織構成自体の偏頗性を基礎付けるものではないため、同条違反には当たらない。2. 問題となった政令第389号1条は、連合国最高司令官の要求に係る事項として委任の範囲内にあり、適法なものと解される。したがって、これを適用した判断に憲法31条違反の瑕疵は認められない。
結論
憲法37条1項違反および憲法31条違反の主張には理由がなく、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟において「公平な裁判所」の論点を提起する場合、裁判官の個人的な資質や具体的判断の是非ではなく、除斥・忌避事由に準ずるような「組織・構成上の客観的な偏頗の恐れ」があるか否かを論じるべきであることを示唆している。実務上、法令解釈の誤りを同条違反に結びつける主張は困難である。
事件番号: 昭和27(あ)5221 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占領政策の遂行と国内経済秩序の維持を目的とする政令による財産権の制限は、憲法29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(貴金属の処分の制限等に関する政令)1条に違反する行為を行った。占領終了後も同政令の違反行為を処罰する昭和27年法律137号3条の経過規定に基づき起訴…
事件番号: 昭和29(あ)156 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】ポツダム宣言に基づき制定された、いわゆるポツダム勅令及びそれに基づく政令は、日本国憲法外の法的効力を有するものであり、占領終了後においても憲法29条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が、昭和24年政令389号等の規定に違反したとして起訴された事案。被告人側は、占領終了後において当該…
事件番号: 昭和28(あ)4078 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】政令による大赦の対象範囲の制限は恩赦法2条に反せず有効であり、大赦の対象から除外された罪については免訴の言渡しをすることはできない。 第1 事案の概要:被告人は米国軍票所持罪に問われていたが、昭和27年政令117号1条83号本文によれば同罪は大赦の対象となり得るものであった。しかし、同号但書によっ…
事件番号: 昭和30(あ)2219 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】連合国占領軍財産等収受所持禁止令は、占領目的の達成のみならず国内経済秩序の維持という公共の福祉をも目的とするため、平和条約発効後も当然に失効せず、その効力を維持させた法律も事後立法には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)に違反する行為…