判旨
行為後に法令の改正等により、特定の地域が関税法上の外国とみなされる地域から除外されたとしても、それは事実関係の変動にすぎず、刑法6条及び刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」にはあたらない。
問題の所在(論点)
行為後に、犯罪構成要件の前提となる行政上の地域指定が変更されたことにより、当該行為が将来的に犯罪を構成しなくなった場合、刑訴法337条2号の「刑の廃止」に該当するか。
規範
刑法6条及び刑事訴訟法337条2号にいう「刑の廃止」とは、刑事罰を規定する法条そのものが廃止され、あるいはその罰則の適用範囲を縮減する等の法規自体の変更(法的価値判断の変更)を指す。これに対し、前提となる行政法令の改正や事実状況の変化により、たまたま当該事案が処罰の対象外となったにすぎない場合は、単なる「事実の変更」であり、刑の廃止にはあたらない。
重要事実
被告人は、当時関税法上「外国とみなされる地域」に指定されていた南西諸島中の中の島と、内地との間で貨物の密輸出入を行ったとして、関税法違反で起訴された。しかし、その行為後かつ判決確定前に大蔵省令が改正され、中の島が「外国とみなされる地域」から除外されることとなった。弁護人は、この改正により従前の行為の刑が廃止されたものとして、免訴を主張した。
あてはめ
本件における省令改正は、関税法上の対象地域の範囲を定めた行政上の手続にすぎず、関税法が定める密輸出入罪の罰則自体を廃止したり、その処罰の必要性を否定したりする法的価値判断の変更を意味するものではない。中の島が「外国」から除外されたことは、社会的情勢の変化に伴う「事実の変更」にすぎず、行為時において禁止されていた密輸出入行為の反社会性が遡及的に否定されるものではないため、刑の廃止とは解されない。
結論
本件省令改正は「刑の廃止」にあたらない。したがって、被告人に対する刑の適用は維持され、免訴すべきではないとした原判決は正当である。
実務上の射程
法令改正が「法律の変更(刑の廃止)」か「事実の変更」かを区別する際のリーディングケースである。答案上では、条文規定そのものが廃止されたのか、あるいは社会情勢等に伴う対象の変動にすぎないのかを、処罰根拠(本件では関税制度の保護)の存否から検討する際の論拠として用いる。
事件番号: 昭和29(あ)1917 / 裁判年月日: 昭和31年7月4日 / 結論: 棄却
一 北緯二九度以南、北緯二七度以北の南西諸島が外国とみなされていた当時、免許を受けないで日本内地から同地域へ、若くは同地域から日本内地へ貨物を密輸出し若くは密輸入した罪については、その後右地域がわが国に復帰し外国とみなされなくなつても刑の廃止があつたものと、いえないことは既に当裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭…