被害届を証拠とすることにつき被告人側は同意しているのであるから、これに署名又は押印を欠いてもこれを証拠となしうるものと解すべきである。
署名又は押印を欠いた被害届を証拠とすることに同意した場合の証拠能力
刑訴法318条,刑訴法321条1項3号,刑訴法326条,刑訴規則60条
判旨
署名または押印を欠く被害届であっても、被告人側がその証拠とすることに同意した場合には、刑事訴訟法326条に基づき証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法326条1項の同意がある場合において、署名または押印を欠く被害届に証拠能力が認められるか。伝聞例外の前提となる書面の形式的適法性と証拠同意の関係が問題となる。
規範
書面または供述が刑事訴訟法321条ないし325条の要件を満たさない場合であっても、検察官および被告人が証拠とすることに同意し、かつ裁判所が相当と認めるときは、当該書面等の作成の真正や形式的備給性を問わず、同法326条1項により証拠能力が認められる。供述書としての形式的要件(署名・押印)の欠如は、証拠同意による証拠能力の付与を妨げるものではない。
重要事実
被告人が起訴された刑事事件において、検察官が他人の氏名(A名義)が記載された被害届を証拠として請求した。当該被害届には、作成者による署名または押印が欠けていたが、被告人側は当該被害届を証拠とすることについて同意を与えた。その後、弁護人は当該被害届に署名・押印がないことを理由に証拠能力を否定し、訴訟法違反を主張して上告した。
あてはめ
本件におけるA名義の被害届は、署名または押印を欠いており、本来であれば供述書としての形式的真正を欠くものである。しかし、被告人側は当該被害届を証拠とすることについて明示的に同意している。証拠同意制度(326条)の本旨は、当事者の処分権を認め、反対尋問権を放棄する意思を尊重することにある。したがって、書面に署名・押印がないという形式的な不備があったとしても、同意がある以上は、その不備は証拠能力を否定する理由にはならないと解される。
結論
被告人が証拠とすることに同意した以上、署名または押印を欠く被害届であっても証拠能力が認められる。
実務上の射程
証拠同意(326条)の対象が、321条等に規定される厳格な書面要件(署名・押印等)を満たさない「不完全な書面」にまで及ぶことを示した。実務上、不同意の場合には321条等の要件(特信情況や署名押印)を厳格に検討すべきであるが、同意がある場合には、それらの欠落は証拠能力を左右しないという「同意の効力の強さ」を説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)6190 / 裁判年月日: 昭和29年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】供述録取書等の書面に契印が欠けている場合であっても、そのことのみをもって直ちに当該書面の証拠能力が否定されるものではない。 第1 事案の概要:被告人の有罪判決において、証拠として採用された録取書等の書面に対し、弁護人が契印の欠如を理由としてその証拠能力を争い、上告を申し立てた事案である。 第2 問…