所論の如く未遂罪であるとしても、只裁判所は減軽を為し得るだけでその他法定刑に変りはなく、その範囲において刑を量定し執行猶予迄言渡した原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは到底いえない。
刑訴第四一一条にあたらない一事例 ―既遂と未遂の認定の誤り―
刑法43条,刑法44条,刑訴法411条
判旨
市長の職印を押捺して文書を作成する権限がない者がこれを行った場合、有印公文書偽造罪が成立する。公文書偽造における作成権限の有無は、当該公務員の職務権限の内容に基づき判断される。
問題の所在(論点)
公務員による公文書作成において、名義人(市長)の職印を事実上押捺し得る立場にある者が文書を作成した場合に、有印公文書偽造罪(155条1項)における「作成権限」の逸脱・欠如が認められるか。
規範
公文書偽造罪(刑法155条1項)における「偽造」とは、作成権限のない者が、他人名義を利用して、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいう。作成権限の有無は、行政組織法上の職務権限に基づき判断されるべきであり、補助的・事務的な関与のみでは作成権限があるとは認められない。
重要事実
被告人は、市長の職印を保管・使用する職務上の立場にあったか、あるいはその機会を利用して、市長の職印を勝手に押捺し、本件文書を作成した。原審は、被告人が当該文書を市長の名義で作成する実質的・法的な権限を有していなかったことを事実認定した。被告人側は、職印の押捺等を行う権限があることを前提に偽造罪の不成立を主張して上告した。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
あてはめ
本件において、被告人は市長の職印を押捺して文書を作成しているが、原審の認定によれば、被告人には市長名義の文書を完成させる法的な権限が備わっていなかった。職印への物理的なアクセスが可能であったとしても、それは形式的な事務作業に過ぎず、意思決定主体としての作成権限を付与するものではない。したがって、権限がないにもかかわらず職印を押捺して文書を完成させた行為は、名義人と作成者の人格の同一性を偽る行為であり、偽造に該当すると評価される。
結論
被告人には市長名義の文書を作成する権限がなく、有印公文書偽造罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
公務員による偽造(155条)と虚偽公文書作成(156条)の区別において、作成権限の有無が決定的な分水嶺となることを示す。補助的な事務権限しか持たない者が勝手に名義人の印章を利用した場合は、156条ではなく155条の偽造となる。答案上は、職務権限の有無を事実から丁寧に拾う際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和38(あ)907 / 裁判年月日: 昭和39年8月28日 / 結論: 破棄差戻
刑法第一五五条第一項にいわゆる公務所または公務員の作るべき文書とは、公務所又は公務員が印章若しくは署名を使用しその権限内において職務執行上作成すべき文書を汎称し、その職務執行の方法範囲が法令に基づくと内規又は慣例によるとを問わないものと解すべきである(昭和一二年七月五日大審院判決、刑集一六巻一一七六頁・明治四五年四月一…
事件番号: 昭和30(あ)3708 / 裁判年月日: 昭和33年4月11日 / 結論: 棄却
村長がその名義の内容虚偽の公文書を作成した場合は、それが専ら第三者の利をはかる等不法な意思に出でその職務権限の乱用と認められる場合であつても、刑法第一五六条の罪が成立し、同法第一五五条の罪が成立するものではない
事件番号: 昭和29(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和32年11月29日 / 結論: 棄却
所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を…