小野田市長名義の転出証明書を偽造しようと企て、これに押捺するために一見して小野田市長Aの印章と誤信させるような「小野田市長印」「A」なる不可分の関係に立つ二個の印章を作成偽造した以上、たとえAが市長選挙に落選してその職を退いていたとしても、公印偽造の罪が成立する。
公印偽造罪が成立する事例
刑法165条
判旨
公印偽造罪(刑法165条)は実在する公務所の印章の信用を保護するものであるから、偽造された印章が通常人をして実在の公務所の印章と誤信させるに足りる外観を備えていれば、その印名が架空であっても、また当該公務員が既に退職していても同罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 偽造された印章に刻まれた氏名が架空、あるいは実在しない状態であっても、公印偽造罪(刑法165条1項)が成立するか。2. 印名の主が既に退職している場合でも、公務員の印章偽造といえるか。
規範
公印偽造罪の保護法益は、実在する公務所又は公務員の印章(署名)に対する公共の信用にある。したがって、偽造された印章が通常人をして実在する公務所又は公務員の印章と誤信せしめるに足りる程度の形式・外観を備えている以上、実際の印影と一致しなくても、また印名の人物が架空であっても、同罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人らは、小野田市長名義の転出証明書を偽造しようと企て、同証明書に押捺するために「小野田市長印」および「A(人名)」という二つの印章を偽造した。実際には、Aは本件犯行の約1週間前に市長選挙に落選して退職しており、犯行当時は市長の職になかった。
あてはめ
本件で偽造された「小野田市長印」と「A」の印章は、不可分の関係に立ち、一見して小野田市長の印章と誤信させるに足りる外観を備えていた。たとえAが現在その職になく、あるいは架空の人物であったとしても、通常人の認識としては「公務員である小野田市長」の印章と誤信させるおそれがある。また、証明書の日付を遡らせれば在職中の名義として通用しうるため、公印に対する公共の信用を害する危険性は明白である。
結論
被告人らの行為には、刑法165条の公印偽造罪が成立する。
実務上の射程
文書偽造罪全般に通じる「一般人の誤信可能性(公共の信用の毀損)」を基準とする判例である。公務員が退職済みであっても、その肩書きを利用して作成される文書の信用性は保護されるべきであり、形式的な有効性ではなく実質的な信用毀損の危険性で判断する点に意義がある。
事件番号: 昭和25(れ)1442 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
行使の目的を以て公文書の形式を偽り、一般人をして公務所若しくは公務員がその権限内において作成したものであると信ぜしめるに足る形式外観を具える文書を作成し、以て公文書の信用を害する危険を生ぜしめたときは他の記載事項欄が空白であつても公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 昭和29(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和32年11月29日 / 結論: 棄却
所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を…