判旨
起訴状一本主義の趣旨に照らし、第一回公判期日前に被告人の前科が記載された身上調書が裁判所に到達していたとしても、直ちに裁判に予断を生じさせる訴訟手続の法令違反があるとはいえない。
問題の所在(論点)
第1回公判期日前に、被告人の前科が記載された身上調書が裁判所に到達し、記録に綴じ込まれていたことが、起訴状一本主義(刑訴法256条6項)に違反し、判決に影響を及ぼすべき法令違反となるか。
規範
裁判官に予断を生じさせるおそれのある書類を起訴状に添付し、またはこれに引用してはならないとする起訴状一本主義(刑事訴訟法256条6項)の趣旨は、裁判官の白紙状態を保持することにある。もっとも、証拠調べがなされていない書類が記録に綴じ込まれ、第一回公判期日前に裁判所に到達していたという事実のみをもって、直ちに判決に影響を及ぼすべき法令違反(同法379条)に該当するとは解されない。
重要事実
被告人の前科が記入された身上調書(照会昭和26年10月1日付、回答同月6日付)が、第1回公判期日(同年10月27日)の前に第一審裁判所に到達していたと推定される状況であった。当該書面は記録上の第1回公判調書と第2回公判調書の間に綴じられていたが、公判期日において証拠調べをされた形跡はなかった。なお、第一審以来、被告人は本件の事実関係について終始争っていなかった。
あてはめ
本件において、身上調書が第一回公判期日前に裁判所に到達していたことは認められる。しかし、当該書面が公判期日において正式な証拠調べを経ていない以上、裁判官が当然にこれを証拠として採用し予断を抱いたとは断定できない。また、被告人自身が事実関係を争っていないという本件の具体的状況に鑑みれば、記録への綴じ込みという一事をもって、公正な裁判を妨げるような判決に影響を及ぼすべき重大な違反があったとはいえない。
結論
第一審の訴訟手続に、判決に影響を及ぼすべき法令違反があったとはいえず、上告は棄却される。
実務上の射程
起訴状一本主義の違反が問題となる場面で、起訴状への直接の添付・引用以外の「記録への混入」がどの程度許容されるかの限界を示す。実務上は、単なる事務的な書類の送付や記録への編入のみでは直ちに違法とはされず、予断が生じる具体的な蓋然性や、被告人が事実を争っているか等の事情を考慮して違法性を判断する際の指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)381 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書において証拠調べの請求、同意、採用決定及び順序が記載されている場合、個々の書類について具体的な実施状況の明記がなくとも、その順序に従い適法に証拠調べが行われたものと認めるのが相当である。 第1 事案の概要:被告人が窃盗罪に問われた事案。第一審において、司法警察員作成の被告人供述調書及び現行…