判旨
不在受配者の記入された郵便貯金通帳を使用した場合と、本件のように他の事情に基づく通帳使用とでは事案を異にする。上告理由として主張された判例違反や事実誤認は認められず、原判決の維持が妥当である。
問題の所在(論点)
先行判例(不在受配者の記入された通帳を使用した場合の判断)との不一致が、刑事訴訟法405条の規定する判例違反としての適法な上告理由に当たるか。また、事実誤認の主張が上告理由として認められるか。
規範
上告審において判例違反を理由に原判決の破棄を求めるためには、当該判例と本件事案が同一の法的性質を有し、かつ判断が相反するものでなければならない。事案の前提事実(本件では通帳の利用態様)が異なる場合には、判例違反の主張は実質的な事実誤認の主張にすぎず、適法な上告理由とはならない。
重要事実
被告人両名が郵便貯金通帳を使用した行為について、弁護人が判例違反(不在受配者の記入された通帳を使用した先行判例)を主張して上告した。しかし、本件で被告人らが使用した通帳の状況や経緯については、先行判例の事案とは異なる具体的態様であった。原審は被告人らの行為を構成要件に該当すると判断した。
あてはめ
弁護人が引用する判例は「不在受配者の記入された通帳を使用した場合」に関するものであるが、本件はこれと「全く事案を異にする」ものであり適切ではない。したがって、判例違反の主張は、その実質において原審の認定した事実を争う「事実誤認」の主張にすぎない。また、量刑不当の主張についても刑事訴訟法405条の上告理由に該当しない。
結論
本件各上告を棄却する。原判決に判例違反や職権破棄事由(刑訴法411条)は認められない。
実務上の射程
事件番号: 昭和28(あ)3044 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判例違反を理由とする上告において、その前提となる事実が事実審の認定に反する場合には、上告理由として適法なものとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が詐欺罪等の罪に問われた事案において、弁護人が判例違反を理由に上告を申し立てた。しかし、弁護人が上告趣意において前提としていた「詐欺の事実」は、原…
判例違反を主張する際には、射程を意識し、前提となる事実関係の類似性を厳格に検討すべきであることを示唆する。答案上は、先行判例の規範を引用する際、事案の特殊性(本件では通帳の属性等)による区別の可能性に留意する必要がある。
事件番号: 昭和27(あ)1711 / 裁判年月日: 昭和28年8月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】架空人物の異動証明を用いて食糧の配給を受ける行為は、単なる不在者名義での受配とは異なり、詐欺罪等の構成要件に該当し得る。本判決は、事実誤認の主張が上告理由に当たらないとして、被告人の上告を棄却した。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない架空人物名義の異動証明を悪用し、主要食糧(主食)の配…
事件番号: 昭和26(あ)559 / 裁判年月日: 昭和27年5月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告適法性の要件として、判例違反を主張する場合には当該判例を具体的に特定する必要があり、その特定を欠く場合やその他の上告理由に該当しない主張は不適法として棄却される。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てた際、弁護人が提出した上告趣意書において末尾で「判例違反」に言及していた。しかし、具体的に…