判旨
架空人物の異動証明を用いて食糧の配給を受ける行為は、単なる不在者名義での受配とは異なり、詐欺罪等の構成要件に該当し得る。本判決は、事実誤認の主張が上告理由に当たらないとして、被告人の上告を棄却した。
問題の所在(論点)
架空人物の異動証明を利用して食糧配給を受ける行為が、単なる不在者名義での受配と同視できるか。また、弁護人の主張が刑訴法405条の上告理由(判例違反)に該当するか。
規範
刑法上の詐欺罪(246条)等の成否において、欺罔行為の対象が実在しない架空の人物である場合、その手段や態様が社会通念上、相手方を錯誤に陥らせて財物を交付させるに足りるものであれば、不法領得の罪が成立し得る。また、適法な上告理由(刑訴法405条)となるためには、単なる事実誤認の主張ではなく、憲法違反や判例違反等の法的瑕疵を具体的に指摘する必要がある。
重要事実
被告人は、実際には存在しない架空人物名義の異動証明を悪用し、主要食糧(主食)の配給を受けた。これに対し、弁護人は「単なる不在者に対する配給を受けたに過ぎない」旨の判例を引用して、本件行為が犯罪を構成しない、あるいは事実誤認がある旨を主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、弁護人が引用した判例が「単なる不在者に対する受配」に関するものであるのに対し、本件は「架空人物の異動証明による受配」であり、事案の性質が異なると指摘した。したがって、引用判例は本件に適切ではなく、弁護人の主張は実質的に事実誤認を争うものに過ぎない。また、記録を精査しても刑訴法411条(職権による判決取消)を適用すべき事由は認められないと判断した。
結論
本件上告は刑訴法405条の上告理由に当たらないため、同法414条、386条1項3号により棄却される。
実務上の射程
架空名義を用いた不正受給が詐欺罪等の刑事責任を免れないことを示唆する。司法試験においては、上告理由の適格性(事実誤認と判例違反の区別)や、詐欺罪における欺罔行為の具体的事例として、架空人物の利用が「単なる不在者利用」とは法的評価が異なる点に留意すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)5550 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不在受配者の記入された郵便貯金通帳を使用した場合と、本件のように他の事情に基づく通帳使用とでは事案を異にする。上告理由として主張された判例違反や事実誤認は認められず、原判決の維持が妥当である。 第1 事案の概要:被告人両名が郵便貯金通帳を使用した行為について、弁護人が判例違反(不在受配者の記入され…