判旨
架空の人物や所在不明の人物が稼働・居住していると装い、主要食糧の受配を委任された事実がないにもかかわらず受配手続を行う行為は、詐欺罪における欺罔行為に該当する。
問題の所在(論点)
実際には稼働・居住していない架空の人物等を対象として、あたかも受配権限があるかのように装って食糧の受配手続を行う行為が、詐欺罪の欺罔行為に該当するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)における「欺罔」とは、交付の判断の基礎となる重要な事項について相手方を誤信させる行為をいう。受配権限の有無や対象者の実在性は、給付の適否を判断する上で本質的な事項であり、これらを偽ることは欺罔行為に当たる。
重要事実
被告人は、当時事業場に稼働または居住しておらず、かつ所在不明であって被告人らに主要食糧の受配方法を委任した事実もない架空の人夫7名、その他計40名について、全員が稼働または居住中であるかのように装い、通帳等を利用して受配手続を行った。
あてはめ
被告人は、受配権限のない架空の人物等について「全員稼働又は居住中」であると偽っている。これは、食糧配給の公的な判断基準において最も重要な「受給資格の有無」を偽るものであり、配給担当者を誤信させる行為といえる。被告人の供述や証人の証言、通帳の存在等の証拠に照らせば、受配権限の委任関係がないにもかかわらずこれを装った事実は明白であり、欺罔行為の実行が認められる。
結論
被告人の行為は詐欺罪の欺罔行為に該当し、原判決の事実認定に違法はないため、上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、公的な配給制度や給付金制度において、受給要件となる対象者の実在性や居住実態を偽る行為が詐欺罪を構成することを端的に示している。答案上は、給付の「原因」となる事実を偽ることが、交付判断に直接影響を及ぼす重要な事項への欺罔に当たることを論証する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)753 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所在不明となった労働者が依然として居住しているように装い、配給所係員を誤信させて物資の配給を受ける行為は、労働者が他所で配給を受けているか否かにかかわらず詐欺罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人が所属する出張所において、大工や土工等の労働者らが転出手続を経ずに逃げ出し、行方不明となった。被告人…