既に疲労困憊の極已に独力で歩行することすら不自由で他の受刑者等に背負われて来た本件被害者を以て故ら逃走の虞があるものとして故なく同人に対して鉄砲手錠を施した上素手でその顔面を数回殴打して同人をして蹌踉顛倒するに到らしめた暴行の所為が、本件特別公務員暴行凌虐の犯罪を構成するのであるから、仮りに所論のように右鉄砲手錠を施すこと自体が正当な行為であつたとしてもそのために本件犯罪の成立を阻却するものではない。
囚人に対する看守の戒護手段が特別公務員暴行凌虐罪にあたる一事例
刑法35条,監獄法19条
判旨
刑務官が、逃走の恐れがない疲労困憊の状態にある受刑者に対し、鉄砲手錠を施した上、顔面を殴打して転倒させた行為は、正当な職務執行の範囲を逸脱した暴行であり、特別公務員暴行陵虐罪等の犯罪を構成する。
問題の所在(論点)
刑務官による手錠の施用および打擲行為が、刑法上の正当行為(職務執行)として違法性を阻却するか。特に、手段自体が形式的に許容される場合であっても、実質的な態様が暴行に該当するかが問題となる。
規範
特定の強制手段(鉄砲手錠の施用等)自体が制度上認められ得るものであっても、当該手段を施す必要性(逃走の虞等)が欠如している状況で、かつ不必要な暴行を伴う場合には、正当な職務行為とは認められず、違法な暴行を構成する。
重要事実
刑務官である被告人らは、疲労困憊し独力での歩行すら困難で、他の受刑者に背負われてきた被害者に対し、あえて逃走の恐れがあるものとして「鉄砲手錠」を施した。その上で、被告人らは被害者の顔面を素手で数回殴打し、被害者を蹌踉(よろめ)かせ転倒させた。
事件番号: 昭和28(あ)4724 / 裁判年月日: 昭和31年2月10日 / 結論: 棄却
一 特別公務員暴行陵虐の罪について、被告人の所為が、証拠品の任意提出を求める職務執行にあたり行われたという審判に付する決定事実および一審判決の事実認定を、控訴審において緊急逮捕の職務執行にあたり行われたと認定することは、それが証拠に即する限り違法ではない。 二 (裁判官池田克の補足意見) 特別公務員暴行陵虐被告事件の一…
あてはめ
被害者は歩行困難なほど疲労しており、客観的に逃走の恐れが認められない状況にあった。それにもかかわらず、「故なく」逃走の恐れがあるとして鉄砲手錠を施したことは、手段の必要性を欠く。さらに、その状態で顔面を殴打し転倒させる行為は、任務遂行の熱意の表れという事情を考慮しても、職務の範囲を著しく逸脱した暴行であると評価される。したがって、仮に鉄砲手錠の施用自体が一般に正当な行為であったとしても、本件一連の所為は犯罪を構成する。
結論
被告人らの行為は正当な職務執行とは認められず、特別公務員暴行陵虐罪等の犯罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
公務員による強制手段の行使が、形式的な権限(手錠の使用権限等)の範囲内であっても、実質的な必要性を欠き、かつ過剰な実力行使(殴打等)を伴う場合には、職務執行としての正当性が否定されることを示す。答案上は、特別公務員暴行陵虐罪における「暴行」や、刑法35条の正当行為の限界を論ずる際の準拠枠組みとなる。
事件番号: 昭和31(あ)4625 / 裁判年月日: 昭和34年8月27日 / 結論: 棄却
司法巡査が覚せい剤取締法違反の現行犯人甲を逮捕する現場で証拠物として適法に差押え整理のため同所に置いた覚せい剤注射液入りアンプルを、被告人乙が足で踏付けて損壊したときは公務執行妨害罪が成立する。
事件番号: 平成12(あ)821 / 裁判年月日: 平成15年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意が判例違反をいう点について事案を異にするとし、その他の憲法違反や法令違反の主張は刑訴法405条の上告理由に当たらないとして上告を棄却した。 第1 事案の概要:被告人が懲役3年、執行猶予5年に処された原判決に対し、被告人側からは判例違反、憲法違反、事実誤認、法令違反を理由に、検察官(指定弁護…