受刑者たる被告人が自己の行動につき注意を加えた看守を脅迫したので、その事実取調べのため副看守長らが被告人を保安課事務所に連行するや、大声を発し暴行を加えかねない態度を示したので、副看守長において保安課長の許可を得て被告人に革手錠をかけた行為は、その革手錠使用につき刑務所長又はこれに代るべき上級職員の事前の命令を受けていなくても、緊急のためこれを受くべき時間的余裕がなかつたことが明らかでありかつ事後のおいて、刑務所長から戒具使用の許否につき包括的委任を受けている管理部長に報告してその決裁を受け、さらに刑務所長においてもその報告を受け、被告人に懲罰を科しているときは適法な職務の執行というべきである。
刑務所長の事前の命令なき戒具の使用が適法な職務の執行と認められた事例。
刑法95条,監獄法19条,同施行規則49条,同施行規則50条
判旨
拘置所等の収容施設における戒具の使用が、当時の監獄法等の法令に基づき適法な職務執行の範囲内で行われたものである限り、公務執行妨害罪の客体となる「職務の執行」に該当する。
問題の所在(論点)
刑事収容施設内における戒具の使用が、公務執行妨害罪(刑法95条1項)の構成要件である「適法な職務の執行」に該当するか。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「職務の執行」の適法性は、当該公務員がその抽象的職務権限に属し、かつ具体的職務権限の範囲内にあり、さらに法律上の重要な手続を履践しているかという観点から判断される。刑事収容施設における戒具の使用については、当時の監獄法(現:刑事収容施設法)等の規定に照らし、その目的、態様、必要性において社会通念上相当と認められる範囲内であれば、適法な職務執行と解される。
重要事実
被告人が拘置所等の施設において収容されていた際、副看守長Aが被告人に対して戒具(手錠や捕縄等)を使用した。これに対し、被告人が抵抗し暴行を加えたため、公務執行妨害罪等の成否が問題となった。原審は、当該戒具の使用は当時の監獄法等の定めに従った適法な職務執行であると認定した。
あてはめ
本件における副看守長Aによる戒具の使用は、原審の確定した事実関係によれば、当時の監獄法等の関連法令に準拠して行われたものである。この使用は、施設内の秩序維持や逃走防止といった適法な行政目的に基づくものであり、その執行の態様も法令の範囲内にあると認められる。したがって、当該行為は公務員の職務権限の範囲内にある適法な公務の執行であると評価できる。
結論
本件戒具の使用は副看守長Aの適法な職務執行に該当するため、これに暴行を加える行為は公務執行妨害罪を構成する。
実務上の射程
刑事収容施設内での秩序維持活動(戒具使用、隔離等)を対象とした公務執行妨害罪の成否において、職務の適法性を肯定する際の根拠として利用できる。ただし、本判決は詳細な規範定立を欠く簡短な決定であるため、答案上は職務適法性の一般論(抽象的・具体的権限、手続の履践)を明示した上で、個別法令(現行の刑事収容施設法等)への準拠性を論証する際の補強として引用するのが適切である。
事件番号: 昭和38(あ)257 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
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