判旨
警察官が現行犯逮捕の権限を有する場合、逮捕に着手する準備行為として現場土地内に立ち入り行動することも適法な公務の執行に含まれる。したがって、当該行為を行う警察官に対して暴行を加えた場合には、公務執行妨害罪が成立する。
問題の所在(論点)
現行犯逮捕の権限を有する警察官が、逮捕の準備行為として土地内で行動することが、公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「職務を執行するに当たり」に該当し、かつ適法といえるか。また、前提となる行政活動の適法性が職務の適法性に影響するか。
規範
刑法95条1項の「職務を執行するに当たり」とは、公務員がその具体的職限に属する職務を適法に開始し、または継続して行っている状態をいう。現行犯逮捕(刑訴法212条、213条)の権限を有する警察官が、逮捕の着手に至る前の準備段階として現場で行動することも、逮捕権限の付随的行使として適法な職務執行に含まれる。また、前提となる行政処分の違法性は、警察官の職務執行の適法性判断に直接影響を及ぼさない。
重要事実
被告人らは、東京調達局員らが土地収用法等に基づき測量のため土地に立ち入ろうとするのを拒否した。現場近くにいた警察官は、被告人らが立ち入りを拒否する行為(土地収用法違反)を現認した。警察官は現行犯逮捕の準備行為として当該土地に立ち入り行動していたところ、被告人らから暴行を受けた。被告人らは、調達局員による強制立ち入り自体が土地収用法上許されず違法であるから、警察官の職務も違法であると主張した。
あてはめ
警察官は、被告人らによる土地収用法違反の現行犯を現認していたことから、刑訴法212条、213条に基づき被告人らを逮捕する権限を有していた。この場合、逮捕の実効性を確保するための「逮捕に着手する準備行為」として土地内で行動することも、逮捕権限に随伴する適法な職務執行と解される。被告人らが主張する調達局員の立ち入りの是非については、警察官が独自の現行犯逮捕権限に基づいて行動している以上、警察官の暴行に対する違法性判断には影響を及ぼさない。したがって、警察官の行為は適法な職務執行といえる。
結論
警察官は適法な公務の執行中であったと認められるため、これに暴行を加えた被告人らには公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、公務執行妨害罪における「職務の適法性」の範囲を、直接の強制力行使(逮捕着手)のみならず、その準備行為にまで広げて認めた点に意義がある。また、行刑分離の観点から、前提となる行政行為の適法性が必ずしも警察官の職務執行の適法性を左右しないことを示しており、答案上は警察官自身の権限(現行犯逮捕権等)の有無を重視して論じるべきである。
事件番号: 昭和26(あ)2447 / 裁判年月日: 昭和28年3月17日 / 結論: 棄却
仮りに公務執行妨害罪が成立しないものとしても、暴行罪の成立することは明らかであり、右暴行罪のみとしても原審の量刑は著しく正義に反するものとは言えないから、刑訴四一一条を適用して原判決を破棄すべきものとは認められない。