判旨
起訴状の訴因において、他の訴因と識別し得る程度に事実が記載されていれば、その同一性が識別可能であるとして刑事訴訟法256条3項にいう訴因の特定を欠くものとはいえない。また、判決の事実摘示が極めて類似していても、証拠との照合により被害者が異なることが明らかであれば違法とはされない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法256条3項に基づく「訴因の特定」において、起訴状にどの程度の具体性が求められるか、また判決書における事実摘示の類似が違法となるか。
規範
起訴状における訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)については、他の訴因と識別し得る程度に事実が記載されていることが必要かつ十分である。具体的には、個々の訴因の同一性が客観的に識別可能であるか否かによって判断される。
重要事実
被告人が複数の罪に問われた事案において、第一審判決の判示における第三および第四の事実記載がほとんど同一であった。これに対し弁護人は、起訴状の記載が各訴因の同一性を識別できないものであると主張し、東京高等裁判所の判例に違反するとして上告した。
あてはめ
本件では、起訴状の記載から各訴因の同一性を識別できないわけではないと認められる。第一審判決における事実記載は極めて類似しており、相違を直ちに識別できる字句を加えることが望ましくはあった。しかし、第一審判決が挙げている証拠を照合すれば、第三と第四の事実は被害者を全く異にすることが明らかである。したがって、被告人の防御等に支障を来すような不明確さはなく、他の訴因と識別し得る程度の記載がなされているといえる。
結論
起訴状に各訴因を識別し得る程度の記載があれば訴因は特定されており、また証拠照合により事実の別が明らかな以上、判決の事実摘示が類似していても違法ではない。
実務上の射程
事件番号: 昭和23(れ)1599 / 裁判年月日: 昭和27年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数種の罪が包括一罪となるためには、各行為が同種の行為であり、かつ単一の犯意が継続していることが必要である。窃盗、臓物運搬、収受、故買および物価統制令違反といった異種の犯罪行為を、一つの継続した犯意に基づくものとして一罪にまとめることはできない。 第1 事案の概要:被告人は、窃盗、賍物(盗品)の運搬…
訴因の特定に関する「識別説」を端的に示した事例である。実務上、日時・場所・方法等が類似する複数の犯罪が起訴される場合でも、証拠関係や他の補充的要素(被害者の違い等)から事後的・客観的に識別可能であれば、訴因の特定という要件は満たされると解すべきである。答案上は、訴因の特定の程度を論じる際の最少限度の基準として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)3545 / 裁判年月日: 昭和28年3月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数個の同一犯罪について、それぞれの犯情に軽重の差がない場合には、判決においていずれの犯罪の犯情が重いかを具体的に明示する必要はない。 第1 事案の概要:被告人が数個の同一犯罪を犯したとして起訴され、原審において有罪判決が下された。弁護人は、判決においていずれの犯罪の犯情が重いかが明示されていないこ…