被告人が三名を教唆して一個の窃盗を犯させたという公訴事実に対して、被告人は、その中一名を教唆し、被教唆者をして外二名と共謀の上一個の窃盗を犯すに至らしめたものと認定することは審判の請求を受けた事実について審判をしない違法があることにわならない。
審判の請求を受けた事実について審判をしない違法があるということにならない事例
旧刑訴法410条18号
判旨
数人に対する教唆が起訴された場合において、そのうちの1名に対する教唆のみを認定することは、公訴事実の同一性の範囲内であり、裁判所は訴因変更の手続を経ることなく別個の事実を認定できる。
問題の所在(論点)
数人に対する教唆として起訴された事実に対し、そのうちの1名に対する教唆のみを認定することが、公訴事実の同一性の範囲内(刑事訴訟法312条1項参照)として許容されるか。
規範
公訴事実の同一性を害しない限り、裁判所は起訴状記載の事実と異なる事実を認定することができる。数人の正犯に対する教唆は、それが正犯の全員に対して行われても、その一部の者に対して行われても、一個の犯罪を構成する事実に変わりはない。
重要事実
被告人は、相被告人Aおよび他2名の計3名に対し、共謀の上で人絹糸等を窃取するよう教唆したとして公訴を提起された。しかし、原審(第一審・控訴審)は、被告人がAの1名のみを教唆したものと事実認定した。これに対し、弁護側は審判の請求を受けた事実について判決をしない違法(不告不理の原則違反)等があるとして上告した。
あてはめ
本件における正犯の犯行は、3名が共謀して人絹糸等を窃取したという一個の犯罪事実である。被告人による教唆行為は、その対象が3名全員であっても、そのうちの1名(A)であっても、特定の窃盗罪を惹起させるという一個の犯罪としての性質を維持している。したがって、教唆の相手方の人数や特定の相違は、公訴事実の同一性を損なうほどの重要な変更とはいえず、公訴事実の同一性の範囲内にあると評価できる。
結論
被告人がAのみを教唆したと認定した原判決は、公訴事実の同一性を害するものではなく、違法ではない。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する初期の判例であり、単一の犯罪事実の枠内での細部の修正は「同一性の範囲内」として訴因変更なしに認定可能であることを示唆する。答案上は、縮小認定(訴因の一部を減縮して認定すること)が許される根拠として、公訴事実の同一性が維持されていることを論証する際に活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)1943 / 裁判年月日: 昭和27年12月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪と贓物牙保罪又は同寄蔵教唆罪との間には、公訴事実の同一性が認められるため、訴因の変更が可能である。公判開始後であっても、訴因の予備的追加又は変更は許容される。 第1 事案の概要:被告人が窃盗罪で起訴されたが、公判の過程で当該事件が盗品等関与罪(贓物牙保罪または贓物寄蔵教唆罪)に該当する可能性…