窃盗共同正犯の訴因に対し、被告人が公判廷でこれを否認し、公訴事実の範囲内に属する窃盗幇助の事実を以つて弁解しており、その防禦に実質的な不利益を生ずる虞れのない場合には、訴因変更の手続をしないで、同幇助の事実を認定して差支えない。
共同正犯の訴因に対し幇助の事実を認定するにつき訴因変更の手続を要しない一事例
刑訴法256条,刑訴法312条
判旨
訴因変更手続が不要となる基準について、公訴事実の同一性を害しない限度において、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないときは、訴因と異なる事実を認定しても差し支えないと判示した。
問題の所在(論点)
裁判所が訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経ずに、訴因(窃盗共同正犯)と異なる事実(窃盗幇助)を認定することが許されるか。訴因変更手続を要する範囲が問題となる。
規範
法が訴因及びその変更手続(刑事訴訟法312条等)を定めた趣旨は、審理の対象・範囲を明確にすることで被告人の防御の機会を保障する点にある。したがって、裁判所は、審理の経過に鑑み、公訴事実の同一性を害しない限度において、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認めるときは、訴因変更手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定することができる。
重要事実
被告人は窃盗の共同正犯として起訴されたが、第一審判決は訴因変更手続を経ることなく、窃盗幇助の事実を認定した。被告人は、第一審公判廷において、当初の窃盗共同正犯の訴因を否認する一方で、後に判決で認定されることとなる「窃盗幇助」に相当する事実を自ら弁解として述べていた。
あてはめ
本件における窃盗幇助の事実は公訴事実の同一性の範囲内に属する。また、被告人は第一審において、自ら窃盗幇助にあたる事実を弁解として主張しており、当該事実について防御の機会が与えられていたといえる。そうであれば、訴因変更手続を行わなくても被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれはないと評価できる。
結論
被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないため、訴因変更手続を経ずに窃盗幇助の事実を認定した原判決は正当である。
実務上の射程
訴因変更の要否に関するリーディングケースであり、答案上は「不意打ち」の有無を確認する「防御充足説」の根拠として用いる。構成としては、まず同一性の有無を確認し、次に本判例を引いて「防御に実質的不利益がないか」を検討する流れが一般的である。
事件番号: 昭和26(れ)475 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
被告人が三名を教唆して一個の窃盗を犯させたという公訴事実に対して、被告人は、その中一名を教唆し、被教唆者をして外二名と共謀の上一個の窃盗を犯すに至らしめたものと認定することは審判の請求を受けた事実について審判をしない違法があることにわならない。