麻薬の不法所持はその所持の目的原因の如何は問わないのであるから、かりに被告人の所持の目的が所論のように売買の仲介であつて自ら販売する目的でなかつたとしても、かかる目的に関する事実認定の相違は、犯罪の成否にも刑の量定にも影響するものではない。
麻薬の不法所持の目的が売買の仲介にあつたときと麻薬所持罪の成否
麻薬取締法(昭和23年法律123号)3条
判旨
おとり捜査(陥穽捜査)によって犯罪が誘発された場合であっても、被告人の犯罪成立や刑事責任が否定されることはなく、また麻薬所持罪は所持の目的を問わず成立する。
問題の所在(論点)
1. いわゆる「おとり捜査」によって犯罪が誘発された場合、その犯罪の成否や被告人の刑事責任に影響を及ぼすか。 2. 麻薬所持罪において、自ら販売する目的の有無が犯罪の成立に影響するか。
規範
捜査機関が詐術を用いて犯人を逮捕し、あるいは犯罪を誘発するような「陥穽(かんせい)」があったとしても、それによって被告人の犯罪成立(実体的な刑責)が左右されることはない。また、麻薬の不法所持罪の成立には、所持の目的や原因は要件とならない。
重要事実
被告人らは、取締官憲によるいわゆる「おとり捜査」によって麻薬取引を行い、逮捕・起訴された。被告人側は、本件が捜査官による陥穽によって誘発されたものであること、また被告人の一人は自ら販売する目的ではなく単なる売買の仲介目的であったことを主張し、無罪または刑の減軽を求めた。
あてはめ
1. 取締官憲が詐術を用いた事実があったとしても、被告人が現に犯罪行為(麻薬取引)を行った以上、その犯罪の成否や刑責に消長を及ぼすものではない。 2. 麻薬の不法所持は、所持の目的や原因の如何を問わない。したがって、売買の仲介目的であり自ら販売する目的でなかったとしても、麻薬を所持している事実に変わりはなく、犯罪の成否や刑の量定に影響はない。
結論
被告人らの上告を棄却し、有罪とした原判決を維持する。捜査の端緒に陥穽があったとしても、被告人の犯罪成立は妨げられない。
実務上の射程
本判決は、違法な捜査手法が実体法上の犯罪成立に影響しないという「実体への影響否定論」を示す初期の判例である。現代の司法試験においては、本判決の立場を踏まえつつも、捜査の違法性が著しい場合には公訴棄却(手続き的解消)の適否を検討する際の比較対象として言及されることが多い。
事件番号: 昭和27(あ)4169 / 裁判年月日: 昭和28年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】おとり捜査が憲法違反にあたると主張された事案において、被告人が麻薬取締官の誘発によって犯行に至った事由が認められない以上、違憲の主張は前提を欠き理由がない。 第1 事案の概要:被告人が麻薬取締法違反(判決文からは詳細な構成要件は不明)に問われた事件において、麻薬取締官が関与するいわゆる「おとり捜査…