一 旧麻薬取締法第四条第三号にいう「譲渡」は、所有権の移転を目的とする授受に限られない。 二 被告人Aが囮であるBの誘発的行為前にすでに犯行の決意をもつていたものであつて、右Bの行為は単に同被告人の犯行の機会を与えたにすぎないことは原判決の認定しているところであるから、同被告人に犯意がなかつたとか又はその行為を以て右Bの代行者又は共犯者の行為とかとする前提にたつ論旨は採用できない。囮である右Bの行為が訴追又は処罰に値するか否かということは、すでに犯行の決意を以て右Bが囮たることを知らないで本件犯行に出た被告人の刑責を左右するものではない。(昭和二七年(あ)五四〇七号同二八年三月五日第一小法廷判決。判例集七巻三号四八二頁参照)
一 旧麻薬取締法第四条第三号にいう「譲渡」の意義 二 囮捜査により犯行を誘発された者の犯罪の成否
旧麻薬取締法4条,旧麻薬取締法53条,刑法38条,刑訴法338条4号,刑訴法337条
判旨
囮捜査において、被告人が誘発行為の前に既に犯行の決意を持っていた場合、その誘発行為は犯行の機会を与えたに過ぎず、被告人の刑事責任を否定するものではない。
問題の所在(論点)
捜査機関側の囮による誘発行為が介在した場合に、被告人の犯意の有無や刑事責任が否定されるか。また、囮捜査による起訴が憲法31条等の適正手続に反し、公訴棄却等の対象となるか。
規範
囮捜査(捜査機関の委託を受けた者が相手方に働きかけて犯罪を実行させる手法)の適法性について、被告人が捜査機関側の誘発行為に先立ち既に犯行の決意を有していた場合には、当該誘発行為は単に犯行の機会を与えたに過ぎない。また、囮側の行為が訴追・処罰に値するか否かは、犯意を持って犯行に及んだ被告人の刑責を左右しない。
重要事実
被告人Aは、麻薬取締法違反(譲渡)の罪で起訴された。本件では、囮であるBがAに対して麻薬の譲渡を働きかける誘発的行為を行っていた。しかし、AはBによる働きかけが行われる前の段階で、既に麻薬を譲渡するという犯行の決意を有していたことが原審において認定されていた。
あてはめ
本件において、被告人AはBによる誘発行為の前に既に犯行を決意していた。したがって、Bの行為はAに新たな犯意を生じさせたものではなく、単に「犯行の機会を与えたに過ぎない」と評価される。また、被告人AはBが囮であることを知らずに犯行に及んでおり、B側の行為の可罰性は、既にある犯意に基づき実行行為に出たAの刑事責任の成否に影響を及ぼさない。
結論
被告人の刑事責任は肯定される。囮捜査が介在していても、既に犯意を有する者に対して機会を提供したに過ぎない場合は適法であり、有罪判決は維持される。
実務上の射程
いわゆる「機会提供型」の囮捜査の適法性を認めた初期の判例である。司法試験においては、捜査の適法性(任意捜査の限界)の文脈で、犯意誘発型か機会提供型かを区別する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)5471 / 裁判年月日: 昭和29年9月24日 / 結論: 棄却
麻薬の不法所持はその所持の目的原因の如何は問わないのであるから、かりに被告人の所持の目的が所論のように売買の仲介であつて自ら販売する目的でなかつたとしても、かかる目的に関する事実認定の相違は、犯罪の成否にも刑の量定にも影響するものではない。