いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性若しくは違法性を阻却するものではない。
いわゆる囮捜査はこれによつて犯意を誘発された者の犯罪の成否に影響するか
麻薬取締法53条,刑法61条,刑法62条,刑法38条,刑法35条
判旨
いわゆる囮捜査は、それによって犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性または違法性を阻却するものではない。
問題の所在(論点)
囮捜査によって犯意が誘発された場合、当該犯罪の構成要件該当性、責任、または違法性が阻却されるか。
規範
捜査機関の働きかけによって犯意が誘発されたとしても、そのことのみをもって、行為者の犯罪構成要件該当性、責任性、または違法性が阻却されることはない。
重要事実
被告人が麻薬所持の罪に問われた事案において、第一審判決は、本件の所持行為がいわゆる囮捜査に基づくものであることを理由に、犯罪行為としての反社会的危険性を欠くとして被告人に対し無罪を言い渡した。原判決もこの第一審判決を維持したため、検察官が上告した。
あてはめ
本件被告人の麻薬所持の行為は、仮に囮捜査に基づいて犯意が誘発されたものであったとしても、その行為自体の性質や被告人の責任が当然に否定されるわけではない。したがって、囮捜査であることを理由に直ちに反社会的危険性を欠くと判断し、実体法上の犯罪の成立を否定した第一審および原判決は、法令の解釈を誤っているといえる。
結論
囮捜査であっても犯罪は成立するため、被告人を無罪とした原判決および第一審判決を破棄し、本件を地方裁判所に差し戻す。
実務上の射程
本判決は、囮捜査が実体法上の犯罪成立(構成要件・違法性・責任)に影響しないことを示した初期の判例である。現代の司法試験においては、本判決のような実体法上の構成だけでなく、任意捜査の限界(刑訴法197条1項)という手続法上の適法性や、違法収集証拠排除法則との関連で論じる際の前段階の法理として位置づけられる。
事件番号: 昭和29(あ)2559 / 裁判年月日: 昭和36年8月1日 / 結論: 棄却
論旨は、原判決の憲法一三条違反を主張するけれども、実質は、囮捜査によつて誘発された麻薬の所持を有罪としたことを避難するに帰する。しかし「他人の誘発により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、わが刑事法上その誘惑者が場合によつては教唆犯又は従犯として責を負うことのあるのは格別、その他人である誘惑者が一私…