−被告人間の利害が相反しない事例− 記録によれば、第一審において被告人Aの私選弁護人大曲実形は、同時に共同被告人Bの国選弁護人に選任されたけれども、Bに対する公訴事実は密出国の事実であり被告人Aに対する公訴事実は密出国にあたり登録証明書を返還しなかつた事実及び密輸出を幇助した事実であつて両名間に共犯関係のないことはもちろん、その公訴事実もそれぞれ別個独立して相互に直接のかかわりなく、たゞBは朝鮮に行く意図を認めたが被告人Aはその意図を否認したに過ぎず、一方に利益な事実は当然他方の不利益な事実に帰するという利害相反する場合とは認められない。これらの事実から見れば、被告人Aの私選弁護人がBの国選弁護人を兼ねたことのために、被告人Aの弁護権が不当に制限されたものということはできない。
甲の私選弁護人が共同被告人乙の国選弁護人を兼ねることと弁護権不当制限の有無
憲法37条3項,刑訴法30条,刑訴法289条,刑訴規則29条2項
判旨
同一の弁護人が共同被告人らを弁護する場合において、公訴事実が別個独立で、一方に利益な事実が当然に他方の不利益な事実に帰するような利害相反関係がないときは、憲法上の弁護権を侵害するものとはいえない。
問題の所在(論点)
同一の弁護人が利害の異なる可能性のある共同被告人を同時に弁護すること(複数弁護・同時弁護)が、憲法37条3項の弁護人依頼権や31条の適正手続に違反し、無効な弁護活動として破棄事由となるか。
規範
一人の弁護人が共同被告人複数を弁護することが憲法37条3項及び31条に違反するか否かは、被告人相互間に利害相反する場合(一方に利益な事実が当然に他方の不利益な事実に帰する関係にある場合)に該当するか否かによって判断される。かかる利害相反関係が認められない場合には、弁護権の不当な制限には当たらない。
重要事実
事件番号: 昭和26(あ)1444 / 裁判年月日: 昭和28年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織・構成をもつ裁判所による裁判を意味し、個別の事件における具体的内容の公正さを指すものではない。 第1 事案の概要:被告人らの弁護人が、原審における事実の認定や法令の解釈が公平でないことを理由として、憲法37条1項が定…
被告人Aの私選弁護人が、同時に共同被告人Bの国選弁護人に選任された。Bは密出国の公訴事実に関し朝鮮に行く意図を認めていたが、Aは登録証明書不返還及び密輸出幇助の事案について、朝鮮行きの意図を否認していた。両者の公訴事案は別個独立したものであり、共犯関係も存在しなかった。また、被告人ら及び弁護人から重任について異議は述べられておらず、弁護人は各被告人の利益を考慮した弁論を個別に行っていた。
あてはめ
本件では、AとBの公訴事案は別個独立しており、相互に直接の関わりがない。Bが意図を認めAが否認している点についても、一方が有利になれば他方が不利になるという排他的な関係(利害相反)とは認められない。実際に弁護人は、一部の同乗者に渡航意図があっても直ちにAに意図があったとは断定できない旨の適切な弁論を行っており、実質的にも弁護権が不当に制限された事実は認められない。
結論
被告人両名間に利害相反する場合とは認められないため、同一弁護人による弁護は憲法37条3項、31条に違反しない。
実務上の射程
被告人が複数いる事件において、弁護人が共通する場合の適法性を判断するリーディングケースである。答案上では、被告人同士が「共犯関係にあるか」「供述が対立しているか」「一方が他方に罪をなすりつける構図か」などの事実を拾い、実質的な利害相反の有無を検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和26(あ)1986 / 裁判年月日: 昭和29年1月14日 / 結論: 棄却
第一審において訴因の追加がなされたところ、控訴審において右は公訴事実の同一性の範囲外の事実にかかり違法の手続であるとして第一審判決が破棄差戻された後、第一審においてその事実につき改めて追起訴がなされたとしても、同一の事実につき二重の起訴があつたものとはいえない。註。関税法違反(密輸入)の公訴事実に対し差戻後の第一審にお…
事件番号: 昭和26(あ)2526 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
一 被告人が公判廷において知情の点を除いて幇助の事実を供述する等その防禦に実質的な不利益を及ぼす虞のない場合には、正犯の訴因の変更をさせないでこれを幇助に認定することができる。 二 物品の密輸入をしようとした貿易等臨時措置令違反の事実とその物品の関税の逋脱を図つた関税法違反の事実とは、その公訴事実を異にする。
事件番号: 昭和26(あ)5299 / 裁判年月日: 昭和28年9月11日 / 結論: 棄却
一 有税物件を密輸入しその関税を逋脱した以上、たといそれがいわゆる占領軍物資で、後に占領軍に引き渡されたとしても、関税逋脱罪が成立する。 二 訴訟において、最後的に確定しなければならない事実は、必ずしも直接証拠のみによつて、これを認定しなければならないものではなく、ある証拠によつて先ず他の事実を認定し、その事実からの推…