一 有税物件を密輸入しその関税を逋脱した以上、たといそれがいわゆる占領軍物資で、後に占領軍に引き渡されたとしても、関税逋脱罪が成立する。 二 訴訟において、最後的に確定しなければならない事実は、必ずしも直接証拠のみによつて、これを認定しなければならないものではなく、ある証拠によつて先ず他の事実を認定し、その事実からの推理によつて、又はその事実と証拠との双方からの推理によつて主要事実を認定することを妨げるものではない。
一 いわゆる占領軍物資の密輸入と関税法違反罪の成否 二 証拠と事実の認定
関税法75条1項,刑訴法317条
判旨
占領下におけるわが国の統治権の制限は、現に占領軍要員の資格を保有する者や占領軍の公用品等に限定され、既にその状態を離れた人や物にはわが国の課税権・刑罰権が及ぶ。また、主要事実の認定は必ずしも直接証拠によらず、間接事実からの推理によって行うことが許される。
問題の所在(論点)
1. 占領下における日本国の統治権が及ばない範囲(刑罰権の限界)。 2. 直接証拠が存在しない場合において、間接証拠(間接事実)のみに基づき犯罪事実を認定することの可否。
規範
1. 統治権の範囲:占領下であっても、統治権の制限は現に占領軍要員たる資格を保有する者、または現に占領軍の公用品・自用品たる物品に対してのみ存在する。それらの身分や状態を離れた人及び物には、わが国の課税権や刑罰権が及ぶ。 2. 証拠による事実認定:訴訟における主要事実は、必ずしも直接証拠のみによって認定される必要はない。ある証拠によって認定された間接事実からの推理、または間接事実と証拠を総合した推理によって主要事実を認定することも妨げられない。
重要事実
日本が連合国の占領下にあった時代、被告人が米国軍用品であったと推認される薬品を輸入したとして関税法違反等で起訴された。本件物品は起訴前に既に米国官憲に引き渡されていた。弁護人は、占領下の統治権の制限によりわが国の刑罰権が及ばないこと、および輸入の事実を示す直接証拠がないことを理由に無罪を主張した。
事件番号: 昭和26(あ)1444 / 裁判年月日: 昭和28年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織・構成をもつ裁判所による裁判を意味し、個別の事件における具体的内容の公正さを指すものではない。 第1 事案の概要:被告人らの弁護人が、原審における事実の認定や法令の解釈が公平でないことを理由として、憲法37条1項が定…
あてはめ
1. 本件物品はかつて米国軍用品であったが、既に占領軍の公用品という状態を離れており、被告人も占領軍要員ではない。したがって、わが国の関税法が適用される。事後的に物品が米国官憲に引き渡されたとしても、犯行時の刑罰権行使を妨げるものではない。 2. 直接証拠がない点については、第一審が挙げた各証拠を総合すれば、そこからの推理によって「被告人が輸入した」という犯罪事実を認定することが可能である。これは自由心証主義の範囲内であり、採証法則に違反しない。
結論
被告人に対しわが国の刑罰権・関税法を適用した原判決は正当であり、また間接証拠による事実認定も適法である。上告棄却。
実務上の射程
統治権の及ぶ範囲に関する憲法的議論に加え、刑事訴訟における「推認」の許容限度を示す。直接証拠がない事案において、間接事実の積み重ねによる立証(いわゆる「状況証拠による立証」)の正当性を基礎づける判例として、事実認定の場面で使用する。
事件番号: 昭和26(あ)1986 / 裁判年月日: 昭和29年1月14日 / 結論: 棄却
第一審において訴因の追加がなされたところ、控訴審において右は公訴事実の同一性の範囲外の事実にかかり違法の手続であるとして第一審判決が破棄差戻された後、第一審においてその事実につき改めて追起訴がなされたとしても、同一の事実につき二重の起訴があつたものとはいえない。註。関税法違反(密輸入)の公訴事実に対し差戻後の第一審にお…
事件番号: 昭和28(あ)1294 / 裁判年月日: 昭和37年12月12日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】第三者の所有物を没収する場合において、当該第三者に対して告知、弁解、防御の機会を与える規定がないまま没収することは、憲法31条および29条に違反する。 第1 事案の概要:被告人が関税法違反等に問われた事案において、第一審判決は、博多税関支署が押収した貨物(ネクタイ、鉛筆、生地等)および船舶「F丸」…
事件番号: 昭和27(あ)88 / 裁判年月日: 昭和28年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審で主張・判断されていない事項を上告理由とすることはできず、また実質的に事実誤認や単なる訴訟法違反を主張するものは適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人Aら5名が、原審(控訴審)判決を不服として上告した事案。弁護人は、原審で主張・判断されていない事項、判例違反を理由とする上告、…
事件番号: 昭和24(れ)1342 / 裁判年月日: 昭和24年12月3日 / 結論: 棄却
所論の物件は原判示事實の如くいずれも被告人が免許を受けずして輸入を圖つたもので被告人の占有に係るものであるから關税法第八三條第一項により没收すべきものであつて、その物件が犯人の所有であることは右規定による没收の要件ではないから原判決がこれを没收したのは正當である。