一 被告人が公判廷において知情の点を除いて幇助の事実を供述する等その防禦に実質的な不利益を及ぼす虞のない場合には、正犯の訴因の変更をさせないでこれを幇助に認定することができる。 二 物品の密輸入をしようとした貿易等臨時措置令違反の事実とその物品の関税の逋脱を図つた関税法違反の事実とは、その公訴事実を異にする。
一 正犯の訴因の変更をさせないで幇助の認定をすることができるか 二 貿易等臨時措置令違反の事実と関税法違反の事実とは、公訴事実を異にするか
刑訴法312条,刑訴法256条,刑訴法338条3号,関税法75条,関税法75条の2,貿易等臨時措置令1条,貿易等臨時措置令4条
判旨
訴訟の経過に鑑み、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認められるときは、公訴事実の同一性を害しない限度で、訴因変更手続を経ずに訴因と異なる事実を認定できる。
問題の所在(論点)
訴因(共同正犯)と異なる事実(幇助)を認定する場合に、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)が必要か。被告人の防御に実質的な不利益が生ずるか否かの判断基準が問題となる。
規範
刑法訴訟法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、審理の対象・範囲を明確にして被告人の防御に不利益を与えない点にある。したがって、裁判所は、審理の経過に鑑み、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更の手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定することができる。
重要事実
被告人Bは、相被告人Aらと共謀して貿易等臨時措置令違反および関税法違反の行為をした(共同正犯)として起訴された。しかし、原審(一、二審)は、訴因変更の手続を経ることなく、共同正犯ではなく「幇助」の事実を認定した。これに対し被告人側は、訴因変更なしに幇助罪を認定することは違法であると主張した。なお、被告人は第一審の公判廷において、知情の点を除いて幇助の事実を自認していた。
事件番号: 昭和26(あ)3918 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
一 密輸入貨物の表示に「内容不詳」の附記があるとしても、密輸幇助事件の公訴事実の記載として罪となるべき事実の特定につき何ら欠くるところはない。 二 内容不詳の密輸入貨物の原価をその三倍が三万円を超えないものと認めることは違法でない。
あてはめ
本件において、被告人は第一審の公判廷ですでに、情を知っていたという点を除き、幇助に該当する事実を自ら認めていた。このような審理の経過に照らせば、裁判所が訴因変更なしに幇助事実を認定したとしても、被告人の防御にとって何ら実質的な不利益を及ぼすものとは認められない。したがって、訴因変更手続を執らずに認定することは許容される。
結論
訴因変更手続を経ずに、共同正犯の訴因から幇助事実を認定した原判決の措置は正当である。
実務上の射程
共同正犯の訴因から幇助罪を認定する場合、一般に構成要件が異なるため訴因変更が必要とされる傾向にあるが、本判決は「被告人が公判で事実を自認している」といった審理の経過から、防御の不利益を否定し、変更不要としたものである。答案上は、訴因変更の要否について「識別機能」と「防御機能」の観点から検討し、特に後者の「具体的防御の必要性」を判断する際の有力な考慮要素として引用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1337 / 裁判年月日: 昭和26年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】正犯が密輸出を企図していることを認識しながら、当該密輸出を容易にする物品の売買行為を行った場合、正犯の実行行為を容易ならしめたものとして、刑法62条1項の幇助犯が成立する。 第1 事案の概要:被告人Dは、共犯者Bらが商品を密輸出する計画を立てていることを察知していた。それにもかかわらず、DはBらに…
事件番号: 昭和27(あ)6454 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具…
事件番号: 昭和26(あ)161 / 裁判年月日: 昭和27年10月10日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】判決において証拠と事実は必ずしも一対一で対応して説明される必要はなく、判示全体として犯罪事実が合理的に認定されていれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は臨時物資需給調整法違反、貿易等臨時措置令違反、および関税法違反の罪に問われた。上告審の継続中に大赦令(昭和27年政令第117号)が公布され、臨時…