判旨
判決において証拠と事実は必ずしも一対一で対応して説明される必要はなく、判示全体として犯罪事実が合理的に認定されていれば足りる。
問題の所在(論点)
刑事判決の理由において、認定された犯罪事実とそれを裏付ける証拠との間に、個別の対応関係を明示する「一対一の対応説明」が必要か、という証拠による事実認定の程度が問題となった。
規範
事実認定の際、個々の証拠と認定事実が逐一対応する形で説明される必要はない。裁判所が証拠全体を総合して犯罪事実を認定する過程において、証拠の摘示と事実の対応関係が包括的であっても、論理的矛盾がなく合理的な認定がなされているのであれば、刑事訴訟法上の違法はない。
重要事実
被告人は臨時物資需給調整法違反、貿易等臨時措置令違反、および関税法違反の罪に問われた。上告審の継続中に大赦令(昭和27年政令第117号)が公布され、臨時物資需給調整法違反については免訴すべき事由が生じた。一方で弁護人は、第一審・原審における事実認定に関し、証拠と事実が一々対応して説明されていないとして、刑事訴訟法違背(事実誤認ないし判決理由不備)を主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、証拠と事実が逐一対応して説明されなければならないものではないという従来の判例(昭和24年(れ)第1724号等)を引用した。本件においても、証拠と事実が個別に明示されていないことを理由とする弁護人の主張は、適法な上告理由に当たらないと判断した。また、大赦があった臨時物資需給調整法違反については職権で免訴としつつ、その他の罪(貿易等臨時措置令違反と関税法違反)については、刑法54条1項前段の観念的競合として重い関税法違反の刑に従い、被告人を懲役1年6月に処した。
結論
証拠と事実は一々対応して説明される必要はない。したがって、個別の対応説明を欠くことを理由とする刑事訴訟法違背の主張は採用できない。
事件番号: 昭和26(あ)1091 / 裁判年月日: 昭和28年2月19日 / 結論: 棄却
原審判決が、本件第一審判決の判文全体の記載から合理的に見て、同判決が所論告発書を挙示したのは、その判示第一事実の罪となるべき事実の直接認定資料に供したものではなく、公訴提訴の手続の有効性の認定のためであると判示したときは、かかる告発書を証拠とすることは違法である旨判示した判例(昭和二五年二月一五日福岡高裁判決)と相反す…
実務上の射程
本判決は、判決書の理由における「証拠の標目」の記載程度に関する実務上の指針を示すものである。司法試験の答案作成においては、事実認定の合理性を論じる際、個別の証拠と事実の対応関係に過度に拘泥する必要はなく、証拠全体による総合考慮が許容されることの根拠として利用できる。また、観念的競合(刑法54条1項前段)の適用例としても参照し得る。
事件番号: 昭和27(あ)5116 / 裁判年月日: 昭和29年3月23日 / 結論: 棄却
共同被告人の検察官に対する供述調書は、当該被告人との関係においては、刑訴第三〇一条の「犯罪事実に関する他の証拠」にあたり、これを最初に取り調べても違法であるとはいえない。註。右共同被告人は一審で確定済。
事件番号: 昭和26(あ)4097 / 裁判年月日: 昭和27年10月10日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人間に起訴・不起訴や没収の有無の差があっても、それが裁判所の恣意的な差別待遇でない限り、憲法14条の法の下の平等に反しない。また、憲法37条(公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利)は、個別の具体的事件における処理の適否を直接対象とするものではない。 第1 事案の概要:被告人Aら複数が関税法…
事件番号: 昭和26(あ)2526 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
一 被告人が公判廷において知情の点を除いて幇助の事実を供述する等その防禦に実質的な不利益を及ぼす虞のない場合には、正犯の訴因の変更をさせないでこれを幇助に認定することができる。 二 物品の密輸入をしようとした貿易等臨時措置令違反の事実とその物品の関税の逋脱を図つた関税法違反の事実とは、その公訴事実を異にする。
事件番号: 昭和25(あ)2864 / 裁判年月日: 昭和27年8月29日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】関税法違反と貿易等臨時措置令違反、およびそれらの幇助行為が、いずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合には、刑法54条1項前段により観念的競合として処理すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年6月、正規の引揚船ではない発動機船に乗船して鹿児島県から佐賀県へ上陸し、不法に入国した。その…