原審判決が、本件第一審判決の判文全体の記載から合理的に見て、同判決が所論告発書を挙示したのは、その判示第一事実の罪となるべき事実の直接認定資料に供したものではなく、公訴提訴の手続の有効性の認定のためであると判示したときは、かかる告発書を証拠とすることは違法である旨判示した判例(昭和二五年二月一五日福岡高裁判決)と相反する判断をしたものとはいえない。
告発書の証拠能力について判例と相反する判断をしたものといえない一事例
刑訴法405条,刑訴法335条
判旨
第一審判決が証拠として挙示した書面が、犯罪事実の直接認定資料ではなく、公訴提起の手続が有効に行われたことを証明するための資料として示されたものである場合には、採証上の法則に反する違法はない。
問題の所在(論点)
判決において、犯罪事実の直接認定資料として許容されない書面(告発書等)が証拠として挙示された場合、直ちに採証法則違反の違法が生じるか。証拠挙示の趣旨をどのように解釈すべきかが問題となる。
規範
第一審判決が証拠を挙示した際、それが「罪となるべき事実」を直接認定するための資料(証拠裁判主義の対象)として用いられたのか、あるいは「訴訟手続の有効性」等の公訴提起の適法性を証明するために用いられたのかは、判文全体の記載から合理的に判断されるべきである。後者の目的で示されたに過ぎない場合には、実体法上の事実認定に関する採証法則違反の問題は生じない。
重要事実
第一審判決は、判示第一事実の認定に際し、税関吏の告発書を証拠として挙示した。被告人側は、当該告発書を犯罪事実の認定資料としたことは採証法則に違反し、判例に反すると主張して上告した。しかし、第一審判決には当該告発書のほかに多数の証拠が挙示されており、告発書を除いても犯罪事実の認定は十分に可能であった。
事件番号: 昭和26(あ)161 / 裁判年月日: 昭和27年10月10日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】判決において証拠と事実は必ずしも一対一で対応して説明される必要はなく、判示全体として犯罪事実が合理的に認定されていれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は臨時物資需給調整法違反、貿易等臨時措置令違反、および関税法違反の罪に問われた。上告審の継続中に大赦令(昭和27年政令第117号)が公布され、臨時…
あてはめ
本件第一審判決の記載を合理的にみると、告発書は「罪となるべき事実」の直接認定資料として供されたとは認められない。むしろ、多数の他証拠によって犯罪事実が認定可能であること、および告発が訴訟条件(公訴提起の有効性)に関わる事項であることを踏まえれば、裁判所は単に公訴提起の手続が有効であることを証明するためにこれを示したと解するのが相当である。したがって、実体事実の認定に不適切な証拠を用いたという採証法則違反の指摘は当たらない。
結論
本件第一審判決が告発書を証拠として示したことは、訴訟手続の有効性を確認する趣旨と解されるため、採証法則違反の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
証拠裁判主義(刑訴法317条)の例外的な処理として、訴訟条件等の訴訟法的事実の認定に用いられた証拠の評価に関する射程を持つ。答案上は、判決書に挙示された証拠が不適切であるとの反論に対し、判文全体の合理的解釈により、認定目的が実体事実以外(訴訟手続の適法性等)にあるとして違法性を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)5116 / 裁判年月日: 昭和29年3月23日 / 結論: 棄却
共同被告人の検察官に対する供述調書は、当該被告人との関係においては、刑訴第三〇一条の「犯罪事実に関する他の証拠」にあたり、これを最初に取り調べても違法であるとはいえない。註。右共同被告人は一審で確定済。
事件番号: 昭和26(あ)1444 / 裁判年月日: 昭和28年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織・構成をもつ裁判所による裁判を意味し、個別の事件における具体的内容の公正さを指すものではない。 第1 事案の概要:被告人らの弁護人が、原審における事実の認定や法令の解釈が公平でないことを理由として、憲法37条1項が定…
事件番号: 昭和26(あ)5299 / 裁判年月日: 昭和28年9月11日 / 結論: 棄却
一 有税物件を密輸入しその関税を逋脱した以上、たといそれがいわゆる占領軍物資で、後に占領軍に引き渡されたとしても、関税逋脱罪が成立する。 二 訴訟において、最後的に確定しなければならない事実は、必ずしも直接証拠のみによつて、これを認定しなければならないものではなく、ある証拠によつて先ず他の事実を認定し、その事実からの推…
事件番号: 昭和26(あ)3918 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
一 密輸入貨物の表示に「内容不詳」の附記があるとしても、密輸幇助事件の公訴事実の記載として罪となるべき事実の特定につき何ら欠くるところはない。 二 内容不詳の密輸入貨物の原価をその三倍が三万円を超えないものと認めることは違法でない。