判旨
横領罪における「自己の占有する他人の物」の要件に関し、委託関係に基づかない事務管理であっても、信義則上適法に物を占有・管理すべき関係が認められる場合には、同罪の保護対象となる委託信任関係を肯定し得る。
問題の所在(論点)
刑法252条1項の「他人の物を占有する」基礎となる委託信任関係について、契約関係が不存在であっても、事務管理によって成立し得るか。
規範
横領罪(刑法252条1項)の成立に必要とされる「委託信任関係」は、必ずしも明示の契約に基づく必要はない。義務なく他人のために事務を処理する「事務管理(民法697条)」のような、法律上または信義則上の管理・保存義務が生じる関係も、同罪の占有を根拠づける委託信任関係に含まれる。
重要事実
被告人がAから直接の委託を受けた事実は認定されているが、弁護側は委託関係の不存在を主張した。これに対し原審は、仮に契約上の委託関係が認められないとしても、被告人がAのために和傘を販売する行為は事務管理に該当し、その過程で物を占有・領得する行為は横領罪を構成すると判断した。被告人がこれに不服を申し立て上告した事案である。
あてはめ
本件において被告人はAの和傘を販売する事務を行っていた。事務管理とは義務なく他人のために法律行為または事実行為を処理することであり、被告人がAのために販売行為を行うことは正にこれに該当する。このような関係下では、被告人は他人の財産を適法に管理すべき地位にあり、その物を実質的に支配しているといえる。したがって、仮に特定の委託契約が存在しなくとも、事務管理に基づき物を占有している以上、これを不法に領得すれば横領罪の成立を妨げない。
結論
事務管理に基づく占有であっても横領罪は成立する。したがって、委託関係の存否を問わず被告人の有罪とした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
事務管理を委託信任関係の根拠として明示した重要判例。答案上では、契約が公序良俗違反で無効な場合や、事務処理が先行行為によって発生した場合など、明示の委託契約を欠くケースにおいて「実質的な信任関係」を肯定するための論拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)679 / 裁判年月日: 昭和31年2月28日 / 結論: 棄却
「横領罪は、他人の物を保管する者が、他人の権利を排除してほしいままにこれを処分すれば、それによつて成立する」ものであることは、当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)九三〇号同二四年六月二九日大法廷判決、集三巻七号一一三五頁参照)