一 貯蓄信用組合理事がその資格をもつて、組合の名において、組合に対する貯金として受入れたものである以上、たとえ、右貯金が組合員以外の者のした貯金であるが故に、組合に対する消費寄託としての法律上の効力を生じないものであるとしても、貯金の目的となつた金銭の所有権は組合に帰属する。 二 主として、不法に融資して第三者の利益を図る目的がある以上、従として、右融資により本人(貯蓄信用組合)の貸付金回収を図る目的であつても、背任罪を構成する。
一 貯蓄信用組合理事が組合名義で組合員以外の者から貯金を受入れた場合とその金銭所有権の帰属 二 背任罪における目的の主従と同罪の成否
民法192条,民法703条,刑法247条
判旨
金銭の所有権は、特段の事情のない限り占有の移転と共に移転するため、占有移転の原由たる契約が法律上無効であっても、金銭の所有権は占有を取得した者に帰属する。
問題の所在(論点)
金銭の占有移転の原因となった契約(消費寄託)が法律上無効である場合、当該金銭の所有権は依然として預金者に帰属するのか、それとも受領した組合に帰属するのか。すなわち、業務上横領罪等の客体となる「他人の物」性の判断基準が問題となる。
規範
金銭は通常物としての個性を有さず単なる価値そのものと解すべきであり、価値は金銭の所在に随伴する。したがって、金銭の所有権は、特段の事情のない限り、占有の移転と共に移転する。たとえ占有移転の原因となった契約が法律上無効であっても、占有の移転があった以上、所有権は相手方に移転し、不当利得返還債権の関係を生ずるにとどまる。
重要事実
被告人A及びBは、C信用組合の理事としての資格において、組合の名と計算において組合員以外の者から「別口貯金」として金銭を受け入れた。しかし、当該貯金は組合員以外の者によるものであったため、法律上は無効であり、組合に対する消費寄託としての効力を生じないものであった。
あてはめ
本件において、被告人らは組合の理事として、組合の計算で金銭を受領し、その占有を組合に移転させている。金銭の所有権は占有と分離し得ないため、貯金契約が無効であっても、占有の移転に伴い金銭の所有権は組合に帰属したといえる。たとえ民法上の寄託契約が無効であっても、預金者が組合に対して不当利得返還債権を取得するにとどまり、金銭自体の所有権が預金者に留保されることはない。
結論
別口貯金の目的となった金銭の所有権は一応組合に帰属する。したがって、当該金銭は被告人らにとって「他人の(=組合の)物」となり得る。
実務上の射程
金銭の所有権と占有の一致原則を判示した重要判例である。刑法上の横領罪において「他人の物」か否かを検討する際、金銭については民法上の契約の有効性にかかわらず、占有の帰属によって所有権を判断するという実務上のスタンダードを提示している。
事件番号: 昭和26(あ)5052 / 裁判年月日: 昭和28年12月25日 / 結論: 破棄差戻
A組合の組合長が、組合の定款に違反し組合の総会および理事会の議決を経ずに、独断で組合名義をもつて貨物自動車営業を経営し、これに組合資金を支出した場合においても、右支出が専ら組合自身のためになされたものと認められるときは、不法領得の意思を欠くものとして業務上横領罪を構成しない。