判旨
業務上自己の保管下にあるガソリンタンクから、ガソリンを抜き取って売却する行為は、他人の占有を侵害する窃盗罪ではなく、業務上占有する物を不法に領得するものとして業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
業務上保管中のガソリンをタンクから抜き取り売却する行為が、窃盗罪(刑法235条)を構成するか、それとも業務上横領罪(刑法253条)を構成するか。特に、タンク内の物に対する保管者の占有の成否が問題となる。
規範
刑法253条の業務上横領罪が成立するためには、行為者が「業務上自己の占有する他人の物」を不法に領得することが必要である。委託関係に基づき、事実上または法律上の支配(占有)が認められる者が、その支配の範囲内にある物を領得した場合は、占有移転を伴う窃盗罪ではなく横領罪が成立する。
重要事実
被告人等は、業務としてガソリンタンクの管理・保管に従事していた。被告人等は、その保管中のガソリンタンクからガソリンを抜き取り、これを第三者に売却した。弁護側は、タンク内のガソリンは依然として他人の所持(占有)下にあり、これを抜き取る行為は窃盗罪にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人等は「業務上保管中」のガソリンを抜き取っている。ガソリンタンクという容器に収められた液体であっても、その管理を委託されている以上、被告人等には当該ガソリンに対する業務上の占有が認められる。したがって、これを抜き取って売却する行為は、他人の占有を排除して自己の占有に移す「奪取」ではなく、既に自己の占有下にある物について領得の意思を発現させる行為といえる。
結論
被告人等の行為は業務上横領罪を構成する。したがって、窃盗罪の成立を主張し判例違反をいう上告論旨は理由がなく、原判決の維持は正当である。
実務上の射程
容器(タンクや倉庫等)に入れられた物品について、管理者がその中身を領得した場合に、窃盗か横領かを分ける基準として機能する。本判決は、管理主体に業務上の保管(占有)を認めた原判決を支持しており、委託関係に基づく占有の有無が罪数決定の鍵となる。司法試験においては、高度な管理権限を有する者が委託の趣旨に反して物品を処分した際の論証に活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4183 / 裁判年月日: 昭和30年8月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上横領罪において、不法領得の意思が認められるためには、必ずしも自己の利得を図る目的は必要ではなく、委託の趣旨に反して権限なく所有者でなければできない処分をする意思があれば足りる。 第1 事案の概要:本件において、被告人は業務上占有していた物(詳細な物件の内容は判決文からは不明)について、本来の…